六年前、検問所で足止めした避難民の一家を増水で流し、止められなかった。——トールは衛兵をやめ、「二度と人を止めまい」と霧河の渡し場を継いで四年になる。擦り切れた舫い綱を、常連の機織りアネッサが工房の端糸をより合わせて継いでくれた朝。トールは暗いままだった桟橋の入口に、古い提灯をひとつ灯した。薪が湿れば猟師のガイが枝を分け、渡し板が反れば老船大工のドンが端材をくれる。足りないと分かるたび、常夜灯は二つ、三つと増えていった。検問所跡を通りかかった冬、トールは初めて、衛兵をやめた本当の理由をアネッサに打ち明ける。川止めの晩には足止め客を小屋に泊め、灯りはやがて桟橋の端から端まで五つ並んだ。初春、アネッサが名を彫った「通いの札」を差し出す。トールは五つの灯りを端から数えて、四年の渡し守の日々が、灯りの数だけ積み上がっていたことに気づく。本作は小春日和の「常連の札が掛かる店」シリーズ。一話完結・どこからでも。

