金床ひとつと槌が三本、鏨の木箱と鞴の革だけ。人ひとりの十二年ぶんの荷を積んだ荷車で、コウガは雨の峠を越えた。「これで十分だ」という痩せた規格を自分の名で通せと命じられ、断って王都の鍛冶座を追われた鍛冶である。流れ着いた鉱山の麓のコルド村では、坑道の天井を支える支柱が、育ちの早い軽い木で組まれていた。重みがかかれば鳴かずに潰れる柱ばかりが、雨ざらしに積まれている。コウガは木口に指を当てるだけでそれを見抜いた。支柱の検分を仕切る組頭ドンザは、粗悪さを認めない。「規格通りだ。これで十分だ」。コウガは自分の手で支柱を測り直し、規格に届いていないことを並べて見せる。「──これは、通ります。ただ、あんたの言う『十分』では、通らない」くず鉄を拾う少女トキを弟子にとり、村の農具と坑道の柱を一本ずつ打ち直していく。トキが初めて鏨で刻印を入れ、坑夫たちが自分からくず鉄を持ち寄りはじめる。そしてある朝、村の年寄りが自分の指で刃の返りを確かめ、「これは通る」と、自分の口で言った。道具の良し悪しを、他人の判ではなく自分の手で測れるようになった村の朝だった。晩夏。コウガはいつもと同じ火床の前で朝の火を起こす。炉のわきの台に並ぶ槌が、一本増えている。組頭は村を去り、ごまかしの規格の書付は、最後まで回収されなかった。鉱夫の口から、鉱山を差配する代官の名が、一度だけ出た。本作は「追放鍛冶コウガ」シリーズ第1巻(全6巻・完結)。

