風の音を聴くたびに、私はあの家と親子のことを憶い出す。
風は鬱蒼たる森と黒土の大地を渡らねばならない。
そして、冷たい寂蓼の調べを奏でながらも、そこに生きる数々の生命のきざはしの声を運ばなくてはならない。
あの親子は、今も達者でいるだろうか。(「さいはての家」より)
妖かしの名匠が贈る絶品奇譚集。「異形コレクション」で連載された12本の短篇と、単行本のための書き下ろし1本を収録。
・思いつづけろ
・通行人役
・筆致
・さいはての家
・6分の1
・蒐集男爵の話
・ニッケル・オデオン
・嫁ぐ娘へ
・開かずの間
・二流
・残された地図
・二階の家族
・“幽剣抄” さらば、一刀流
●菊地秀行(きくち・ひでゆき)
1949年、千葉県生まれ。青山学院大学卒業後、雑誌記者の傍ら同人誌に作品を発表し、1982年『魔界都市“新宿”』でデビュー。1985年、『魔界行』三部作が大ヒット、人気作家の座を不動のものとした。伝奇・幻想・バイオレンス小説の第一人者。著作は300冊を超える。