梅雨の晴れ間のある日、神田川を越えて散策に出た明庵と小夜。急な土砂降りに見舞われ、稲荷の社で雨宿りしていた明庵たちは、社の堂の中から漏れてくる女同士の睦み合いの声に耳を奪われた。だが堂の中を窺うと、女二人かと思われた片割れは何と美形の少年。しかも女の方は、今まさに少年の命を奪おうとしていた。
間一髪、明庵らの双淫の術で少年は窮地を救われる。重之進と名乗る少年は上州の小藩の嫡子で、跡目争いに絡んで命を狙われているらしい。自らの命は自分で守らざるをえない重之進。明庵は重之進に双淫の術を伝授し、襲い来る刺客を迎え撃たせようとする。だが、秘術の要である男女交合の修行も半ば、新たな刺客が明庵たちの前に…。
●北山悦史(きたやま・えつし)
1945年、北海道生まれ。山形大学文理学部中退。学習塾運営のかたわら小説を書き、1977年、官能作家デビュー。「官能小説大賞」「日本文芸家クラブ大賞」「報知新聞社賞」を受賞。独特のソフトな文体と描写で人気を博す。気功家としての顔も持ち、各地で気功教室を開いている。『占い師天峰 悦び癒し』(二見文庫)、『絵草子屋勘次随喜竿』(悦の森文庫)など著書多数。