下総国中河藩の小役人の嫡男として生まれた九十九幹之介。幼少より医術や本草に興味があった幹之介は、家督を継いだ後も勤めのかたわら能を磨き、近隣の者たちの病を診るまでの腕になっていた。だがある日、運命は一変した。かねてより幹之介が診ていた同輩の妻・小菊が急死したのだ。自らの余命を知り、女の悦びをいま一度という小菊の願いを聞き入れ、情を交わした直後のことだった。幹之介は妻の不義を確信して乗り込んできた同輩を斬り、藩を出奔する。
明庵と名を変え、江戸の裏長屋に住まいを得た幹之介。追手の影に怯えながらも、人の心身の痛みを感じる異能を生かし、医師明庵として生きていくが…。
●北山悦史(きたやま・えつし)
1945年、北海道生まれ。山形大学文理学部中退。学習塾運営のかたわら小説を書き、1977年、官能作家デビュー。「官能小説大賞」「日本文芸家クラブ大賞」「報知新聞社賞」を受賞。独特のソフトな文体と描写で人気を博す。気功家としての顔も持ち、各地で気功教室を開いている。『占い師天峰 悦び癒し』(二見文庫)、『絵草子屋勘次随喜竿』(悦の森文庫)、『金四郎桃色秘帖 桜吹雪の女』(学研M文庫)など著書多数。