明庵の診療を手伝うようになって一年、助手としてかけがえのない存在となった小夜が、ある日姿を消した。剣呑な予感はあった。その前日、明庵と小夜は往診の帰途、夜道で凶刃に襲われたのだ。とっさの双淫の術で難を逃れた明庵たちだったが、誰かに狙われているのは間違いなかった。彼らがいま治療にあたっているのは、ある旗本家の後継ぎを懐妊したものの経過のよくない側室・多恵。あるいは後継ぎ出生の妨害を企図する者が、多恵の周りにいるのかもしれなかった。
数日後、何事もなかったように帰ってきた小夜。だが、その心は何者かに取り込まれてしまっていた。小夜の心を奪還し、多恵に迫る淫らな陰謀を暴くために明庵は…。
●北山悦史(きたやま・えつし)
1945年、北海道生まれ。山形大学文理学部中退。学習塾運営のかたわら小説を書き、1977年、官能作家デビュー。「官能小説大賞」「日本文芸家クラブ大賞」「報知新聞社賞」を受賞。独特のソフトな文体と描写で人気を博す。気功家としての顔も持ち、各地で気功教室を開いている。『占い師天峰 悦び癒し』(二見文庫)、『絵草子屋勘次随喜竿』(悦の森文庫)など著書多数。