ふとした取り違いから同輩を斬り、下総国中河藩を出奔した九十九幹之介。今は明庵と名を変えた幹之介は、神田須田町で医業を営みながら、追手の影に怯える日々を送っていた。
ある日、住まい近くの神社の境内でごろつきにからまれていた町娘を助けたことをきっかけに、その少女を助手として使うことになった明庵。人の心身の痛みを感じる異能を活かし、性治療の名医としてその名を知られるようになっていた明庵は、小夜と名乗った少女とともに性に悩む女達をつぎつぎに癒していく。だが、十六歳とも思える美貌の小夜との仕事をつづけるうち、明庵は小夜の中に、ある女の面影が潜んでいることに気づいて…。
●北山悦史(きたやま・えつし)
1945年、北海道生まれ。山形大学文理学部中退。学習塾運営のかたわら小説を書き、1977年、官能作家デビュー。「官能小説大賞」「日本文芸家クラブ大賞」「報知新聞社賞」を受賞。独特のソフトな文体と描写で人気を博す。気功家としての顔も持ち、各地で気功教室を開いている。『占い師天峰 悦び癒し』(二見文庫)、『絵草子屋勘次随喜竿』(悦の森文庫)など著書多数。