中期の佳作短編12作収録。女衒の呪縛から逃れられなかった女を描く『渚通り』など男女のもつれ合う愛を描いた作品が詰まっている。
『渚通り』は女衒によって性の極みを知った女が、純真な獣医と知り合い愛を覚えながらも、最後の血の一滴まで搾り取る冷酷な女衒の呪縛から逃れられず、哀しい最期を遂げる様から、女性の性の深みを描いた秀作。ほか、銀座バーホステスのある冬の体験を軸として、ホステス固有の女ごころを描く『寒い冬』、近親相姦をテーマに性の深淵を垣間見せた『光と風』、立原を想像させる新進作家に手紙を出した倦怠期を迎えた人妻とのやり取りを描く『女の手紙』、戦争の後遺症を背景に淫蕩な女に変貌した主人公の性欲の激しさを描く『わかれ』、二人の男の間を奔放に生きる若き人妻が見出した“無意識の裂け目”を描いた『曠野』等を収録。
付録として長女・立原幹氏が父の思い出を綴る「東ケ谷山房 残像 十九」など関連エッセイ2作、および評伝『立原正秋伝」より「挿話」を収録。特別付録として、『光と風』、『七月の弥撒』、『わかれ』」の生原稿と、「立原正秋 作品の世界(10)」として「三浦半島」を収録。
※この作品にはカラー写真が含まれます。