昭和から平成へ…作家としての覚悟と決意を語った「もうひとつの国」等、中上の“最後の叫び”が凝縮された1巻。
『時代が終り、時代が始まる』は、昭和の時代のカウントダウンが開始された頃のエッセイ。一九八七年、沖縄国体ソフトボール競技会場で起きた「日の丸焼棄事件」に反応した作家は、時代の潮目を読むアンテナを備えた一人のシャーマンでもあった。
長篇エッセイ「もうひとつの国」は、韓国、バリ島と旅を続ける作家の自作とその風土の解読としても刺激的な内容である。中上健次はここで、和歌山県新宮市の土木建設業者の親族が中心的な役割を果たした、現実の「路地」の解体=再開発を目の当たりにして、作家としての覚悟と決意を語っているのだ。虚構空間としての「路地」は、言うまでもなく「現実の路地」(被差別部落)と深く切り結んでいた。あるいは、ここで語られた「熊野」とは、もとより世界遺産指定以前の、「中心」に回収されることのない熊野である。
『バッファロー・ソルジャー』のタイトルは、ジャマイカのレゲエ歌手ボブ・マーリーの歌から取られている。Buffalow soldier brought to America--。
終わりなき旅を続ける中上のフットワークは、衰えを知らない。
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※この作品にはカラー写真が含まれます。