中上健次は、評論、エッセイの書き手としても類い希な才能を発揮した作家だった……。彼の初心が窺える詩編にも注目!
ここに収めた諸篇からは、彼の初心とその持続の跡を窺うことが出来る。長編エッセイ「犯罪者永山則夫からの報告」(『鳥のように獣のように』)は、一九六八年に無差別連続ピストル射殺事件を起こした犯人で後に作家になった同世代の青年への根底的な問いであり、同時に自身へと差し向けられた、なぜ書くのかという初発の問いであった。『夢の力』には、坂口安吾論など本格的な作家論も収録、読むことが書くことへの刺激となり、意欲となって作品世界を増殖させてゆく創造の秘密が垣間見えてくる。『破壊せよ、とアイラーは言った』は、フリージャズのアルバート・アイラーへのオマージュだ。ジャズ喫茶で知り合ったかつてのフーテン仲間を回顧しながら、中上はセリーヌやサド、ケルアックやジュネについても言及する。当時、最先端の音楽であったレゲエ、最後の前衛演劇や映画について惜しげもなく語り尽くす中上。この一連のエッセイによって明らかになるのは、高卒で肉体労働者となった彼が、新宿という街をさながら愉楽に満ちた非制度的な教養形成の場に作り替えてしまうマジックだ。
特別寄稿として、長女・紀の回想録「家族の道端」(4)を掲載。
付録:少年時代から、『文芸首都』時代、結婚式のスナップ等の若き日の中上に迫る「中上健次 写真館」(2)…青春の日々を収録。
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※この作品にはカラー写真が含まれます。