30代から40代にさしかかり脂ののりきった中上渾身のエッセイが一堂に! ビートたけし、坂本龍一との対談も収録!
韓国の民俗芸能の発見から語り起こされる『風景の向こうへ』の肝(きも)は、五人の作家論を配した「物語の系譜」のパート。初版の単行本に収録されたのは、折口信夫論の途中までであった。他に同じ新宮出身の佐藤春夫、谷崎潤一郎、『雨月物語』の上田秋成、そして「日本近代文学にあらわれた唯一の女性物語作者」円地文子が新たに論じられている。熊野の風土のそこかしこで、物語が発情させられていると語る作家は、その「物語」に存分に染まり、しかしまた敢然として「物語批判」に立ち向かう紛れもない「小説家」だった。あえて谷崎潤一郎を、「物語信奉を餌に肥え太ったブタ」と語ったのも、「モノガタリへの畏れ」を人一倍自らに掻き立てた作家ならではの挑発的な言辞だろう。
『アメリカ・アメリカ』で中上は、アイオワを起点に米国中南部を旅する。ここではボルヘス、ボブ・マーリーというおよそかけ離れた存在が、インタビュアー中上によって、何故かキャラクター的に何らの違和感もなく共鳴を開始するのだ。
また『オン・ザ・ボーダー』では、まさにボーダーに立つ作家から次のような魂の叫びが発せられる。「ただ、東アジア、日本からしか生れえなかった文学が、さながら難破船からの救助信号のように世界に向って発信されるのである」--。
特別寄稿として、長女・紀の回想録「家族の道端」(8)、現代作家が語る「中上文学の神髄を語る」(4)島田雅彦を掲載。
付録:『鳩どもの家』サイン本等を収録した「特別資料」(8)と、を収録。
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※この作品にはカラー写真が含まれます。