きっと僕は一生この作品を忘れられない
お試しを読んだときにはもう遅かった。
きっとこの作品は言葉ではなく、官能描写ではなく、心で人を揺さぶる作品であることに気付きました。
ボーイズラブ作品とは男同士の恋愛をある種のファンタジー(ありふれたもの)として描き出すことで我々読者は気軽にそれを堪能することができるのですが、それは同性愛がマイノリティであることに半分目を瞑っている状態です。
この作品は中盤で世間体や自分達の今後を案じた晃が夕希に別れを告げます。今までは二人だけの世界(ファンタジー)だったはずなのに、その時はじめて夕希(それから読者)はマイノリティの現実に放り込まれるのです。
それからはマジョリティへと身を投じた晃の視点で作品が進みます。何かがおかしい、足がおぼつかない、前に進めない。それもそのはず、彼は夕希を道標に人生を歩んできたのです。どうしようもないほどに愛した夕希がいつか自分のもとからいなくなってしまうことに恐怖し、自ら道標を切り離してしまった。いつかみた朝日が彼の心を照らし出し、彼は号泣する。永遠の道標を失った自分が他の誰かと人生を歩んでいけるはずもないのに。
二人が再開を果たしたのち夕希は言います。
「二人でいれば怖いことなんて何もないのに」
マイノリティであろうともなかろうとも、夕希が晃の道標であり、晃が夕希の道標であるならば、共に歩み続ける限り、一直線に続く白線を真っ直ぐに進んで行ける。
なんていとおしい。そして狂おしいほどの愛。
この作品に出会ってしまったことは僕にとって幸福なことであると同時に不幸なことでもあります。
正直出会わなければ良かったと思うほど、他の作品に手がつけられずにいる程です。
きっとこんなにも素晴らしい作品は二つとしてない。僕はこの作品のことを一生心に携えて生きていきます。
常倉三矢先生、この作品をこの世に生み出してくださり本当にありがとうございました。