少年の成長譚は、決して爽やかなだけじゃない…。『ソラニン』の作者が送る名作鬱漫画『おやすみプンプン』をネタバレ考察。かなりの鬱展開で有名な一方、リアルで奥深い描写が心に刺さるとの意見も多いこの作品は、名作として語り継がれています。無料立ち読み付きなので、気になった方はぜひ読んでみてください!
『おやすみプンプン』とは
普通の街のどこにでもいそうな主人公の少年「プンプン」の波乱に満ちた半生を描いた作品です。 この作品の大きな特徴は、主人公である「プンプン」やその家族と親戚のみ“ヒヨコ”のような姿で描かれていて、名前に加え、高い描写力の情景や周りの登場人物などから浮いた存在になっているとこ。それに加え、コラージュ的な表現を作品内で用いたり、一部の登場人物に話の進行とは無関係な奇行を描いたりと、実験的なシュルレアリスム表現が随所にみられるのが特徴です。
あらすじ
ある日のこと、小学5年生のプンプンはクラスにやってきた練馬区からの転入生・田中愛子に一目惚れする。愛子ちゃんに告白し距離も縮まり仲良くなるが、徐々に愛子ちゃんの愛情や交わした約束の重さに戸惑い始める。また、プンプンの家庭では両親の夫婦喧嘩から暴力事件に発展し離婚に至ってしまう。それがきっかけで母と叔父と暮らすことになり名前も小野寺プンプンに変わる。 そんな時、ある出来事から愛子ちゃんとは疎遠になってしまう。 その後も愛子ちゃんの影に囚われ続け鬱々とした日々を過ごしながら成長していくプンプンだが・・・。
登場人物たち
本作品の魅力はたくさんありますが、どこか拗らせた登場人物がたくさん出てきます。 その中から主要なキャラクターを紹介していきます。
主人公:プンプン
本作の主人公。プン山(小野寺)プンプン。ぷんやま(おのでら)ぷんぷん。 物語の開始時点では小学5年生の少年本来は普通の少年の姿だが、ヒヨコのような姿で描かれている。両親が離婚後は母親に引き取られ、苗字が母親の旧姓「小野寺」となる。 引っ込み思案の内気な少年で、思春期を経て鬱々と悩むことが多くなっていく。周囲の友達などとは普通に交流しており、男性アイドルの「ジョニーズ」系と言われたり、描きかけの似顔絵から、本来の姿イケメンではないかという説がある。 小学生時代に田中愛子に恋をし告白して仲良くなる。彼女を運命の相手だと感じるものの、ある出来事から徐々に疎遠になってしまい中学では会話することも稀だった。 以降も依然として愛子ちゃんの存在は生きる上での最大の指針となっており、愛子ちゃんの影に囚われ続け鬱々とした日々を過すことになる・・・。
愛子ちゃん(田中愛子 たなか あいこ)
プンプンのクラスに練馬区から転入してきた少女。プンプンの一目惚れかつ初恋の相手。 プンプンから告白され仲良くなっていくが、プンプンが自分だけをずっと好きで絶対的な味方でいる事、嘘をつかない事などを念入りに要求し、プンプンに恐怖心を抱かせてしまう。 将来の夢は有名になること。 母親が怪しい宗教団体「コスモさん健康センター」の信者で、学校が休みの日は布教活動に同行させられているが、そんな母親を疎んでいた。 愛子ちゃんもプンプンに好意を抱いていたが、すれ違いが重なり疎遠になってしまう。
雄一おじさん(小野寺雄一 おのでら ゆういち)
プンプンの叔父で、プンプンママの実弟。 プンプンと同じようにヒヨコのような姿で描かれているが、眼鏡をかけておりニット帽姿が特徴。 美大の大学院を出て陶芸教室の講師をしていたが、その頃に出会ったある女の子とトラブルになり、その出来事がトラウマになり罪の意識を持ちながら生活を送る。 プンプンの良き理解者で、度々プンプンに助言を与えてくれる。 プンプンが幼かった頃に、唱えると謎の神様が現れる「神様神様チンクルホイ」という呪文を教える。
プンプンママ
プンプンの母親。 プンプンと同じようにヒヨコのような姿で描かれているが、目元のまつ毛、口紅、突き出た胸などが特徴的。プンプンパパと夫婦喧嘩をした際にに怪我をしてしまい、それがきっかけでプンプンパパと離婚する。自己中心的でヒステリックな言動が目立ち、酒乱の気がある。その反面寂しがりで涙もろい。 プンプンとの関係は冷めている。
さっちゃん(南条幸 なんじょう さち)
プンプンの4年先輩の女性。物語の中盤から登場する。 予備校の講師をやりながら絵本や漫画、絵の創作活動をしていた。漫画化志望。黒髪ロングで眼鏡をかけており、スレンダーでクールビューティーな容姿をしている。サバサバした性格で辛辣な発言も多いが面倒見が良く心優しい人物。
神様(かみさま)
プンプンが叔父の雄一から教えて貰った「神様神様チンクルホイ」という呪文を唱えると現れる。天然パーマで眼鏡をかけた笑顔の男で謎の存在。プンプンの質問に答えたり願いを叶えたりはせず、欲望を煽るようなことばかり返答する。
魅力ポイント
(1) 登場人物たちの心理描写や人生エピソード
この作品の最大の魅力は、それぞれのキャラクターの心理描写や人生エピソードが細かく描かれているとこです。 様々な登場人物との関わりの中で変化していく主人公のプンプンの感情、またプンプンとは関係なく登場人物たち自身の人生の中で変化していく感情。悩みながら必死になったり、泥沼にハマったり、流されたり、悩まずにはいれないけど、それでも時が進んでいく。 自分と他者の感情の変化がしっかり描かれていて、読んでいると主人公のプンプンや作中の登場人物につい感情移入してしまいます。
(2) 細かく描き込まれた背景
浅野いにおさんの作品の特徴といえば、細かく書き込まれたリアルな背景。 デジタルカメラで撮った風景写真を直接ペンでなぞったりphotoshop等の画像加工ソフトを駆使して作成しているそうです。 抽象的な姿をしたプンプンと精密でリアルな背景のバランスが素晴らしいです。
(3) Theメンヘラ・愛子ちゃん
この作品のヒロインでプンプンの初恋の相手、愛子ちゃん。 母親が宗教法人コスモさん健康センターの熱狂的な信者など、家庭環境が複雑でとても苦労しており、愛情に飢えた女の子です。 そんな愛子ちゃんはかなりのメンヘラ・・・!そのメンヘラっぷりは、小学生のプンプンが「怖い。」と感じてしまうほど。何だかゾッとする愛子ちゃんのメンヘラ発言をご紹介します。 鹿児島に2人で行くと愛子ちゃんと約束したプンプン。プンプンが「鹿児島とはどこらへんにある島なのだろうか?」ととぼけた質問をすると、愛子ちゃんはこう言います。 「……ねぇ、プンプン……もし、約束、やぶったら…プンプンがもし、またあたしを裏切ったら…今度は殺すから」 中学生になり疎遠になってた2人が久しぶりに会話をかわすシーンでの愛子ちゃんの言葉。 「たった一人でいいから、頭のてっぺんからつま先まで1ミリの間違いもないくらい……完全にわかり合いたい。その人と二人きりになれるなら、他には何もいらない。もし、その夢がかなうなら、あたしはその瞬間に死んでもいい。」 保健室でふたりきりになったプンプンと愛子ちゃん。愛子ちゃんに「プンプンはあたしのこと好き?」と聞かれ、プンプンは頷きます。両思いになった2人。その時プンプンが思わず「怖い。」と感じた愛子ちゃんの言葉です。 「だってプンプンはあたしのことがだーーーいすきなんだもんね? ずぅ~~~っとずぅ~~~っと、ずうぅ~~~っとあたしの幸せだけを考えてくれるもんね?ねっ!?」
メディア情報
第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門の審査員委員会推薦作品に選出。
まとめ
いかがだったでしょうか。読んでるとどんどん鬱な気持ちになっていくこの作品ですが、世界感に引き込まれてついつい読み進めてしまいます。既に完結済みで 全13巻の「おやすみプンプン」。 落ちるところまで落ち込みたい、という時にぜひ読んで見てください。
世界の終わりと夜明け前
少年・青年マンガ▼無題▼夜明け前▼アルファルファ▼日曜、午後、六時半。(夏の思い出/ア ガール イン ブリリアント ワールド オブ ア ボーイズ デイドリーム/帰宅)▼超妄想A子の日常と憂鬱▼休日の過ごし方▼17▼素晴らしい世界▼東京▼世界の終わり▼時空大戦スネークマン ●あらすじ/彼女との別れ話でもめていた友人・飯田に仲介役を頼まれた「俺」。だが、待ち合わせ場所に飯田が現れず、「俺」は飯田の彼女と2人でオールナイトのボーリング場に行く。いっそのこと飲みに誘おうかも考えたが、朝イチの会議までに企画書を完成させないといけない「俺」は、ただ無駄な時間をどうでもいい会話で費やしていく…(夜明け前)。 ●本巻の特徴/デビュー連作の短編「素晴らしい世界」、構想6年の渾身作「東京」を含む、心ざわめかす単行本未収録作品10編+α。描き下ろし、カラーも多数収録!!