アニメ映画にもなり話題になったマンガ『聲の形』をご存じでしょうか?いじめや聴覚障害といった難しい題材を扱いつつ、人と人の関わり合いを濃密に描いた作品です。見どころや登場人物を紹介しながら、作品の解説をしていきます。
マンガ「聲の形」概要
連載されていた雑誌情報や、メディアミックスについての詳細を解説していきましょう。
「週刊少年マガジン」にて連載
『聲の形』は2013年から2014年までの間、「週刊少年マガジン」で連載されていた作品です。2014年にはコミックナタリー大賞を受賞し、また第19回手塚治虫文化賞新生賞も受賞しています。 作者は大今 良時さんで、母親は手話の通訳者をしており、本作に登場する手話シーンでは母親の協力もあったそうです。
アニメ・映画化にも
原作のヒットを受けて、2016年にはアニメ映画が製作されました。監督は『けいおん!』などを手がけた山田 尚子さんで、映画は興行収入23億円を超える人気作となりました。 第40回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を筆頭に、多くの賞を受賞しています。アニメ映画で主題歌を担当したのは、aikoさんです。『恋をしたのは』という切ない楽曲が作品の雰囲気にマッチしていました。
より深く楽しむために「見どころ」
本作の見どころは、登場人物たちの繊細な人間関係にあります。主な注目ポイントを解説していきましょう。
人間が持つ弱さ
作中に出てくるキャラクターたちは、ほとんどが心のどこかに弱い部分を持っており、物語が進むとより鮮明にそれがフォーカスされます。 たとえば主人公の石田は、小学生の時にいじめっ子からいじめられっ子に変わったことで、人の顔を見て会話することができなくなってしまいました。マンガの中の石田目線では、度々周囲のキャラクターの顔にバツ印がつけられており、人と向き合うことを彼が避けているのだと分かります。 過去にいじめをしたことへの後悔、かつての同級生と会う恐怖など、負の感情が生々しく描かれているため、ある人は共感を覚え、またある人は人の弱さについて考えるきっかけにもなるでしょう。
物語を追うごとに変わっていく人々の心
物語序盤は、主人公の石田たちが小学生だった頃の話です。聴覚障害を持つ転校生、西宮の登場により、クラスは変化していきます。いじめっ子はいじめられっ子に、理解者になろうとした生徒は不登校になるなど、小学生ならではのどこか残酷な人間関係に翻弄されることになりました。 そして6年後、高校生になった彼らはそれぞれの学園生活を過ごしながらも、過去に引っかかりを覚えたままでした。6年振りに西宮と再会した石田たちは、改めて向き合ったり、時にはぶつかったりしながら、昔とは違う接し方を試みるのです。 加害者、被害者、傍観者それぞれの立場だった彼らに、物語中盤・終盤でどのような気持ちの変化が表れるのかが見どころです。
コミュニケーションそのものへの深い考察
聴覚障害である西宮が話の軸になるため、障害を持つ者とのコミュニケーションといった部分に注目されがちですが、これは本作ではあくまで一つの要素に過ぎません。 石田以外のキャラクターたちも、すぐ感情的になってしまったり、追い込まれると他人に責任をなすりつけてしまったり、いじめに対して過剰に反応し攻撃的になってしまったりなど、対人関係においてそれぞれが違った問題を抱えています。 それらが西宮の存在を通して浮き彫りにされることになり、読み手側は「どうすれば人に気持ちを伝えられるのか」を考えさせられます。
ざっと把握しておこう「あらすじ」
中盤からは高校生になった主人公たちのストーリーが展開されますが、序盤は小学生時代の話が描かれています。その時代の内容を簡単にまとめました。
聴覚障害を持つ少女へのいじめから始まる
小学生の石田は、クラスの悪友たちとやんちゃをして目立っている生徒でした。度胸試しで高いところから飛び降りたり、喧嘩をしたりと、退屈を嫌って思いつくままに奔放な日々を過ごしていました。 ある日、石田のクラスに転校生がやってきます。それが、聴覚障害を抱える女子生徒、西宮でした。石田にとって彼女は未知の存在であり、退屈を紛らわせてくれる生徒となります。 西宮をからかったり、ちょっかいを出して笑いをとっていた石田は、次第にエスカレートしていじめを行うようになりました。
保護者からの抗議でいじめの対象が変わり…
最初は黒板に悪口を書く、ゴミを投げつけるなどのいじめをしていた石田は、西宮がつけている補聴器に目をつけ、強引に奪って破損させるいじめを繰り返していました。 愉快な日々を送る石田ですが、ある日、保護者からの抗議が学校に入ります。短期間で連続して補聴器がなくなったことで、いじめがあるのではとの声が寄せられたのです。 被害額の多さ、警察への連絡と話が大きくなってくると石田は焦り、名乗り出ようとします。担任に怒鳴られ追い詰められた石田は、自分以外も西宮をいじめていたと主張しました。しかし周囲は石田を切り捨て、彼一人を加害者にすることで問題を終わらせたのです。 そこから石田はいじめられっ子へと立場が変わり、自分がこうなったのは西宮のせいだと恨むようになりました。それから一ヶ月後、西宮は再び転校し、石田は孤独なまま小学校を卒業したのでした。
クセがあるからこそ魅力的?主要登場人物
本作の登場人物は、みんな個性的でクセのあるキャラクターです。高校編を中心に、石田を深く関わっていく人物たちの一部を紹介しましょう。
石田 将也 (いしだ しょうや)
本作の主人公で、小学生時代は西宮をいじめていたやんちゃな生徒でした。しかし保護者からの連絡でクラスの雰囲気が一変し、いじめられっ子になります。中学時代も孤独に過ごし、高校生となった現在もクラスに馴染めず、人と会話するのが苦手な性格になってしまいました。 思っていることをなかなか言い出せない性格で、西宮とは再会後、互いに気にかけていたにも関わらずなかなか踏み出せませんでした。 高校編で描かれる彼は、過去の罪をあがない、西宮のために尽くそうとする一方、かつてのクラスメイトとは気まずく接する場面もあります。
西宮 硝子 (にしみや しょうこ)
本作のヒロインで、小学生の時、石田のクラスに転校してきた女子生徒です。聴覚障害を持っており、会話は主に手話と筆談で行います。 障害が原因で小学生時代はいじめられており、すぐに転校してしまいました。石田が高校生になってから、手話サークルで再会しました。 気持ちをスムーズに伝える手段を持たないことから、気持ちを伝えることが苦手な性格になり、愛想笑いでその場をやり過ごすクセを持っているようです。 元々明るいキャラクターではありませんでしたが、石田と再会後、多くの人と関わるようになったことで、それまでよりも他者との関わりを深く持つようになりました。
西宮 結絃 (にしみや ゆづる)
西宮硝子の妹で、中学生ですが学校には通っておらず、不登校の生徒です。見た目が少年っぽいため、石田や他のキャラクターからは男性と間違われることもありました。 姉の硝子を慕っており、姉を傷つける者には明確な敵意をぶつけます。そのため、昔硝子をいじめていた石田に対しても、最初は反抗的な態度をとっていました。 しかし硝子が石田と仲良くなりたがっていることや、石田の今現在の態度を見ているうち、二人のことを応援するようになります。
永束 友宏 (ながつか ともひろ)
石田が通う高校のクラスメイトで、高校生の石田にとって数少ない友人の一人です。ボリュームある髪型と、小太りな体型がトレードマークです。 友情を重んじ、義理堅い性格をしていますが、一方で見栄っ張りな面もあり、友達が多くいるかのように振る舞うなどの描写もあります。 女性からはあまり人気がなく、特に石田の昔のクラスメイト、植野からは嫌悪感を持たれているようです。
真柴 智 (ましば さとし)
石田が通う高校のクラスメイトで、一見爽やかかつ人当たりのよい好青年です。しかし、昔ささいなことが理由でいじめられていた過去があり、いじめっ子に対しては冷徹な面を見せるというギャップがあります。 石田が変わっていることに目をつけ、彼に近付き仲良くなりますが、その真相は物語終盤で明らかになります。
人との違いを今一度考えたくなるマンガ
『聲の形』は、性質の異なる人間同士がコミュニケーションを取る難しさを描いており、人との関わりについて深く考えさせられる作品です。 暗い心理描写や険悪な人間関係なども丁寧に描かれているため、決して明るいテイストのマンガではありませんが、シリアスで、読んだ後はさまざまなキャラクターの側面について思いを巡らせたくなるでしょう。