ジョージ朝倉さん作のマンガ『溺れるナイフ』は、10代の少年少女がテーマの恋愛マンガです。よくある爽やかな学園物語ではなく、尖ったナイフのような鋭く激しい思春期が描かれます。作品のあらすじ、主要登場人物、また実写化映画についても紹介します。
溺れるナイフのあらすじ
『溺れるナイフ』は、2004年から講談社の『別冊フレンド』に連載された少女マンガです。10代男女のエキセントリックで危うい姿と、繊細で切ない恋愛模様をドラマチックに描きます。 まずは序盤のあらすじをざっくりと追っていきましょう。
東京からド田舎へ引っ越してきた夏芽
東京に住む夏芽(なつめ)は、ちょっと大人びた雰囲気を持つ美少女です。まだ小学6年生でありながら、中学生向けのファッション誌"プラム"のモデルとして活躍し、都会でのリア充生活を満喫していました。 夏のある日、東京から5時間もかかるド田舎・浮雲町(うきぐもちょう)へ家族みんなで引っ越すことになります。 それは、父親が実家の家業である旅館"ひねもす屋"を継ぐためです。夏芽は突然の環境の変化に戸惑うと共に、"全てに忘れさられ埋没してしまいそうな焦り"を感じるのでした。
コウと出会い惹かれ合う
浮雲町では未だに人々の信仰が篤く、ひねもす屋の近くにも"神さんの海"と呼ばれる聖域がありました。 夜海辺を散歩していた夏芽は、そこで海から上がってきたコウと出会うのです。白く発光するように見えるコウに、夏芽は神々しさを感じます。 その後、さまざまな場所でコウに会いますが、傲慢なコウに反感を覚えながらも惹かれてしまう夏芽。 田舎に馴染めない上に、クラスの女子から陰口を言われていると知った夏芽は、家出をして東京に戻ろうとします。その道すがら偶然コウと出会い、2人で東京へ出かけるのでした。
芸能界に復帰した夏芽に事件が起こる
東京で、夏芽は雑誌撮影に飛び入り参加します。現場に居合わせた有名な写真家・広能(ひろのう)は夏芽に特別な才能を感じ、写真集のオファーをしようと考えます。 ところがコウが広能を殴り、夏芽を連れて逃げ出します。2人はそのまま電車で浮雲町へ帰り、家出騒動はあっけなく終わりを迎えるのでした。 その後、広能からのオファーをきっかけに夏芽は芸能活動を再開、中学生になりコウと付き合い始めます。 浮雲町の大行事である"喧嘩火付け祭り"の夜、夏芽は旅館の宿泊客・蓮目(はすめ)から「祖父が倒れた」という伝言を受け取るのです。 蓮目の車で病院へ向かう夏芽でしたが、それが思いがけないトラブルへと繋がっていきます。
溺れるナイフの主要登場人物
ここではストーリーの中心的存在となる主要登場人物4人について紹介します。 それぞれキャラクターの特徴や性格だけでなく、友情・恋愛関係などそれぞれの関係性が今後どう変化していくのかもチェックしましょう。
望月夏芽(もちづき なつめ)
主人公の美少女です。物語開始時は、東京在住の12歳の小学6年でした。 すらっと長い手足ときれいな顔立ち、大人っぽい雰囲気と抜群の存在感で、中学生向けファッション雑誌のモデルとして活躍していました。 父親の故郷である浮雲町へ引っ越すことになり、都会と田舎のギャップやモデル活動休止など、突然の環境の変化に焦りを覚えるのでした。
長谷川航一朗(はせがわ こういちろう)
夏芽と同い年の少年です。回りからは「コウ」「コウちゃん」と呼ばれます。夏芽が"神さんの使い"だと思うほど、神秘的で神々しい美しさを持っています。 大地主で、神主の家系でもある長谷川家の跡取り息子です。複雑な家庭環境、また地元の誰もが逆らえない一族であることの影響か、傲慢で破天荒な性格で、暴力的な面も見られます。 夏芽に対してはツンデレで、挑発的な態度ながら実はその美しさに強く惹かれているのでした。
大友勝利(おおとも かつとし)
大友も夏芽・コウと同い年の少年で、2人のクラスメイトです。浮雲町で生まれ育ち、小学生時代はコウとは親友関係でした。 背が高く中学ではバスケ部に所属しており、時々先輩たちに振り回されます。 朗らかで優しい性格です。しかしコウのことが大好きなため、夏芽とコウが付き合い始めてからは焼きもちを焼いて夏芽を悪く言ったり、夏芽に悪態をついたりしますが、中学になってから徐々に気持ちが変化していきます。
松永カナ(まつなが かな)
同じく夏芽・コウのクラスメイトで、浮雲町で生まれ育ったおっとりと素朴な少女です。 ぽっちゃり型の体形、運動が苦手、すぐ泣いたりおどおどしたりする性格などが原因で、小さい頃からみんなにバカにされてきました。 幼い頃からずっとコウに片思いをしています。また夏芽が引っ越してくる前から雑誌プラムを愛読しており、モデルの夏芽のファンでした。 夏芽とコウを理想のカップルだと思っており、2人が付き合うことを望んでいます。
2016年に実写映画化
『溺れるナイフ』は、監督の山戸結希さんにより2016年に実写映画化されました。山戸監督は、インタビューで原作マンガが「ずっと大好きでした」と語っており、作品に対する思い入れもひとしおだったようです。 また情景の美しさのほか、主演の2人の演技にも注目が集まり完成度の高い作品となりました。
小松菜奈さん・菅田将暉さんW主演で話題
映画はW主演で、夏芽役の小松菜奈さん、コウ役の菅田将暉さんと非常にぜいたくなキャスティングでした。 小松菜奈さんの透明感のある美しさと、少し憂いを帯びたような独特の雰囲気がスクリーン上でキラリと光ります。 小松さんも12歳で雑誌モデルデビュー、後に女優へと転身しており、夏芽とシンクロしている点も興味深いところです。 菅田将暉さんは"アイドル性と高い演技力の両面を兼ね備えている俳優"といわれており、ビジュアルの良さだけでなく表現力でもコウの魅力を十二分に引き出しているといえるでしょう。
惹かれ合いながらすれ違う2人の行方は
『溺れるナイフ』は、ティーンモデルとして活躍する美少女と、神がかり的な美しさを持つ少年の、思春期の激しい恋模様を描きます。 ナイフのような激しい感性のぶつかり合いと、ガラス細工のような繊細な心理描写、都会と田舎の葛藤も描かれ、周囲の思惑にすれ違う2人の恋と、切なくもハラハラするポイントがたくさんです。10代の危うい恋模様のスリルを存分に味わいましょう。