『テセウスの船』は、竹内涼真さん主演でドラマ化もされた話題のマンガです。大量殺人事件の犯人として逮捕された父と、加害者家族としての生活を強いられた主人公が事件の真相に迫ります。本作の見どころや、原作とドラマの違いを解説していきましょう。
『テセウスの船』はどんなマンガ?
ドラマ化もされた話題作『テセウスの船』について、原作や作者の情報、ドラマの主演や主題歌について紹介していきます。
マンガ雑誌『モーニング』で連載
テセウスの船は、2017年から2019年までの間、『モーニング』で連載されていたサスペンスマンガです。作者は東元俊哉(ひがしもと としや)さんで、1981年、北海道生まれです。これまでに『破道の門』『湘南レスキュー部』『バウンスアウト』『バタフライ』などの作品を手がけています。 テセウスの船は、かつて小学校で無差別大量殺人事件が起き、主人公の父親が犯人として逮捕されたことが主軸です。 28年後、主人公は妻の死をきっかけに、残された子どもの親権を守るため、"死刑判決を受けた父に冤罪の可能性があるかもしれない"と独自に調査し始めます。その最中にタイムスリップしてしまい、事件のあった年に戻るというシナリオです。
竹内涼真さん主演でドラマ化
2020年1月からテセウスの船はテレビドラマ化され、TBSの日曜劇場で放送されました。主演は竹内涼真さんです。ほかにも、父親役に鈴木亮平さん、母親役に榮倉奈々さんら豪華な俳優陣が出演しており、物語を盛り上げていました。 主題歌はUruさんの曲『あなたがいることで』です。ドラマの雰囲気に合った切ないバラードで、小林武史さんのプロデュースした楽曲ということも話題になりました。
『テセウスの船』1巻のあらすじ
1巻では、加害者家族として世間から見られている主人公の境遇や、それでも妻と幸せになろうとする姿が描かれています。そこから事件の真相を知ろうと動きだし、タイムスリップが起きたところまでのあらすじを紹介します。
死刑判決を受けた父親
主人公・心(しん)は妻の由紀と共に暮らしており、由紀のお腹の中には子どもがいました。一見幸せな暮らしを送っているかに思えた2人でしたが、心はある過去におびえています。 心を苦しめていた過去とは、"彼の父親の件"です。実は彼の父は、心が生まれる前に起きた殺人事件の犯人として逮捕されていたのです。 以降、心や兄弟、母親は"加害者の家族"という目で世間から見られ、後ろめたさに追われながらの生活を余儀なくされていました。しかし、そんな彼にも子どもができたことで、"幸せを守る"という前向きな目標ができたのです。
妻の死と娘との別れ
心が仕事をしていると、由紀から突然の電話がかかってきます。陣痛が訪れ、急きょ入院が決まったという知らせでした。その日の夜にも子どもが産まれるかもしれないと聞いた心は、慌てて病院へと向かいます。 苦しみながら赤子を産んだ由紀。しかし、その出産で彼女は命を落としてしまったのです。愛する妻を失った悲しみに襲われる心でしたが、追い打ちをかけるように葬儀の場で義父から激しく責められてしまいます。 殺人者の家族の元に孫を置いておけない、と義父は産まれた子を引き取ることを宣言。心は改めて、加害者の家族という立場に絶望するのでした。
父の起こした事件を調べ始める
一時は我が子の幸せのためと、子どもを引き取ってもらい父親であることを諦めようとする心でした。しかし、子どもが自分に笑いかけているのを見て、自分がこの子を守るのだと強く決意します。 今までは、父親の事件について深く知ることを避けてきた心でしたが、改めて事件を調べ始めます。すると、妻が残してくれたスクラップから"父親は冤罪の可能性もあるのでは?"という可能性に気付くのです。 現在、心の父は札幌の拘置所に収監されています。心は、真相を知るため札幌に向かい、父と会うことを決めるのでした。
1989年にタイムスリップ
父の弁護士と会う約束をし、心は出発します。心は弁護士と会う前に、当時事件が起きた"音臼(おとうす)小学校"のある"音臼村"へと赴きました。今は廃村となり、やがてダムが建設されるその土地で、心は事件の慰霊碑の前に立ち事件について考えます。 そのとき、周りが霧に覆われ、心は突然の視界不良に襲われたのです。やがて霧が晴れると、心の前には慰霊碑ではなく、音臼小学校が建っていました。 心は、事件が起きた1989年にタイムスリップしてしまったのです。そこで心は、かつての村の様子や、そこに暮らしていた人々のことを知ることとなります。
『テセウスの船』の見どころは?
本作はミステリーでありながら"タイムスリップ"という要素も加わり、複雑なストーリー展開を見せます。同時に"家族の絆"も描かれ、ただのミステリーでは収まらないジャンルです。そんな本作の見どころを紹介していきます。
過去の事件を暴くタイムスリップミステリー
父親のせいで加害者の家族として扱われ、つらい目に遭ってきた主人公。しかし、"父は本当に事件の犯人だったのか"を探るため、真相を暴こうと奮闘する様子が描かれています。 ただ過去の事件を解明するだけでなく、タイムスリップにより自らがその過去に立ち会うことで、"真相究明"と"過去の改変"を行おうとしているのが本作の特徴です。 当然、タイムスリップした先には、事件を起こした犯人もいます。それが父なのか別の誰かなのか、読者も一緒になって推理しながら読み進めていくどきどき感を味わえます。
過去の家族との交流
過去にタイムスリップした主人公の心は、まだ自分が生まれていなかった頃の両親や姉、兄と出会います。 現代では姉・兄との関わりはほぼなく、親からは「人前で笑うな」と育てられてきた心ですが、過去はまだ事件が起きる前で家族の心も病んではいません。まだ明るかった頃の家族と交流を持つことで、家族の温かさに触れていく心の心情描写も見どころです。
読むほどに深まっていく謎
タイムスリップした過去では、心が知っている通り、父が犯人とされている大量殺人事件以外にも数々の事件・事故が起こります。 その事件を起こしていたのは誰だったのか、なぜ父は加害者として逮捕されたのか、謎はどんどん深まっていきます。 しかし、徐々に事件の真相が明らかになってくると、これまでなにげなく読んでいたところが伏線になっていたり、登場人物の不可解な行動の意味が判明したりとパズルが完成していくような面白さが味わえるでしょう。
『テセウスの船』が意味するところ
作品のタイトルであるテセウスの船とはどういった意味があるのでしょうか。なぜそのタイトルになったか、またドラマ版では原作と何が違うのかなどを紹介します。
"テセウスの船"とはパラドクスのこと
テセウスの船とは元々、"パラドクス(逆説・矛盾)"を表す用語です。ギリシャ神話が語源で、怪物を倒した"テセウス"という英雄が乗っていた船が記念として後世に残されていました。 老朽化するたびに修復作業をするのですが、古くなった部品を新しいものに交換していくうちに最初の部品は徐々になくなっていきます。 これがパラドクス、つまり"矛盾"を内包しており、"部品が交換された船は元の船と同じ船なのか?"という疑問が生まれるのです。 最初にあった船がテセウスの船なのか、それとも部品交換後の船がテセウスの船なのか。テセウスの船という作品は、"これをもし、船でなく人間に置き換えて考えた場合はどうなるか"といったテーマを扱っています。
原作とドラマの違い
ドラマ化もされたテセウスの船ですが、原作とはいくつか相違点があります。たとえば、"舞台となった時代"が若干異なります。原作では2017年が現代として扱われていますが、ドラマでは制作年に合わせて2020年に変更されていました。 主人公である"心の年齢"も、原作では27歳でしたがドラマでは31歳の設定です。また、"物語の中心となった場所"も、北海道から宮城に変わっていました。 犯人が原作で犯行の記録に使っていた"音声テープ"も、ドラマではワープロに置き換えられています。声で犯人が視聴者にすぐ分からないよう、工夫したのかもしれません。 上記以外にもいくつか原作と異なる点はあるため、原作を読んで気になった人はドラマも見てみるとよいでしょう。
衝撃の結末を見届けよう
テセウスの船は、ミステリーでありながらタイムスリップなどのSF的要素を含み、さらに家族の絆を描いた物語でもあります。 数々の謎に立ち向かう主人公と、驚きの結末に読み手側は引き込まれ、夢中で読み進めてしまうほどです。ミステリーものが好きな人、推理を楽しみたい人におすすめの作品です。