"みつお"という同じ名前を持つ2人の男が織り成す、犯罪と暴力にまみれた愛憎劇を描いた作品が『ダブルミンツ』です。中村明日美子さんの描く究極の共依存BLについて、作品の詳しいあらすじや登場人物をまとめて紹介します。
「ダブルミンツ」はどんな作品?
『ダブルミンツ』は、暴力や犯罪が絡むハードボイルドなダークBLマンガとして名高い作品です。痛いほどの愛憎にまみれた2人の男の物語は、いったいどのような作品なのでしょうか。 まずは作者である中村明日美子さんについてと、関連情報についてチェックしてみましょう。
「メロメロ」にて連載、作者は 中村明日美子
『ダブルミンツ』の作者である中村明日美子さんは、官能的でドラマチックなストーリーや、独特の雰囲気が読者を魅了している作家です。代表作の『同級生』シリーズは青春BLマンガの金字塔とも呼ばれている名作で、他にも数々の作品を送り出しています。 線の1本1本に表情を感じさせるような、繊細で独自の色気を醸し出す絵柄が特徴です。アシスタントを使わず、アナログ作画で描きあげていることでも知られています。 『ダブルミンツ』は雑誌『メロメロ(mellow mellow)』にて2007年から2008年に連載されたBLマンガですが、10年以上経ってもなお読者の心を引きつけてやまない作品です。
2017年に実写映画化
壱河光夫役を岸尾だいすけさん、市川光央役を野島裕史さんというキャストで2012年にドラマCD化をしている『ダブルミンツ』。2017年には、実写映画としても公開されています。 監督は内田英治さんで、壱河光夫役を淵上泰史さんと川籠石駿平さん(高校時代)、市川光央役を田中俊介さんと須賀健太さん(高校時代)が演じました。
「ダブルミンツ」のあらすじ
目を塞ぎたくなるような暴力とセックス、まるでサスペンス映画を見ているかのようなスリリングな展開など、『ダブルミンツ』はBLというジャンルを超越した作品といわれています。気になるストーリーについて、序盤のあらすじをチェックしてみましょう。
高校時代同級生だった2人のみつお
壱河光夫(いちかわ みつお)と市川光央(いちかわ みつお)は、漢字違いの同姓同名で高校の同級生でした。作中では、壱河光夫はミツオ、市川光央がみつおとして区別されています。 同じ名前を持つ2人でしたが、ミツオは真面目で気弱なタイプで、みつおは独善的な不良タイプと正反対の性格です。みつおはミツオをいじめのターゲットにしていました。 いじめ行為からの解放の条件としてみつおが「俺の犬になれ」などと言い、ミツオは「わん」と返事をします。ここから、2人のいびつな主従関係が始まったのです。
ある日、光央から「女を殺した」という電話
ある日、システムエンジニアとして働くミツオの元にみつおから電話がかかってきました。高校卒業以来の連絡だったため戸惑うミツオでしたが、みつおは「女を殺してしまった」と衝撃的な発言をします。 2人は駐車場で落ち合いミツオは事情を聞こうとしますが、みつおの開けた車のトランクには女性の死体が入っていました。なぜ自分に連絡したのかミツオが問うと、みつおは「なんとかしろ」とだけ答えます。 高校時代の主従関係を思い出し、ミツオは否応なしに協力することになるのでした。
女の死体を2人で埋める
トランクに女の死体を乗せたまま、「酒がきれた」というみつおの横暴な指示で2人は居酒屋で食事をします。飲みながらみつおが、女は自分と数回寝た相手で、知らない男と話していたことに腹を立て殴ったことが原因で死んだのだと言いました。 みつおの薬指には、彼女とおそろいだという指輪がはめられています。彼に対して今も特別な感情を抱くミツオは、寝てしまったみつおの唇を舐め、指輪に触れようとしました。 そして、みつおの犬として服従していた高校時代のことを回想します。みつおもミツオに対して「オマエは俺の犬だ」と言い、2人の共依存にも似た主従関係が大人になっても続いていることが描かれるのです。
光央は自首するも、女の死体が発見されない
2人は車で山に行き、女の死体と指輪を埋めます。埋めた後の帰りの車内で、みつおは「殺すつもりはなかった」「あの女を愛してた」と語りました。 そんなみつおの言葉を聞いてタガが外れたミツオは、みつおに口づけ股間を愛撫し始めます。抵抗しミツオを殴って車を降りたみつおは、恐ろしくなり警察に自首したのでした。 警察は証言通り女を埋めた場所を捜索しますが女の死体が出てこなかったため、みつおは釈放されます。そして、なぜ死体が消えたのかと不審に思うみつおの前に、指輪を着けたミツオが現れ「責任取れよ」と言い放つのでした。
「ダブルミンツ」の登場人物
『ダブルミンツ』には、どこか痛々しさも感じさせるようなキャラクターが登場します。主人公の2人のミツオ、そして物語の鍵となる女性について見ていきましょう。 それぞれの登場人物を性格や言動など、掘り下げて紹介します。
壱河 光夫(いちかわ みつお)
作中ではミツオと呼ばれていて、システムエンジニアとして働くサラリーマンです。おとなしい性格で真面目そうに見える男で、みつおよりも背が高くあご髭を生やしています。 高校時代にみつおから暴力をふるわれていて、全裸で跳び箱の中に監禁されるといういじめを受けました。その際、解放する条件として主従関係になったのです。 学生時代からみつおに対して特別な感情を抱いていて、事件に巻き込まれたことから人生が一変。みつおに対する執着から、徐々に常軌を逸した行動を取るようになります。
市川 光央(いちかわ みつお)
作中ではみつおと呼ばれているチンピラで、黒髪の短髪に"涙ぼくろ"が特徴です。華奢な体型でまつ毛が長く、学生時代はニヤニヤと挑発的な笑みを浮かべていました。 学生時代から同じ名前のミツオを下僕扱いしていて、再開後も常に見下し支配的な態度を取るのです。暴力団の下っ端で、以前に犯した罪から組織からある制裁を受けました。 口が悪くミツオに対しても横柄な言動をしますが、実際は威勢だけで弱腰になってしまうところがあります。
女
みつおとクラブで出会い、肉体関係を持つようになったという女性です。会ったのは3〜4回ほどで、いつも酒を飲んでただセックスをするだけの関係でした。 知らない男と話していたことが原因で殴られ、殴り返したことで逆上したみつおにさらに殴られて車のトランクに入れられてしまいます。左手の薬指にみつおに買ってもらったおそろいの指輪を着けたまま、山中に埋められてしまうのです。 スレンダーな体型でロングヘアの女性で、キャミソールにショートパンツという露出の高い格好をしています。
「ダブルミンツ」のここに注目
全編を通して心がヒリヒリとすり切れるような痛みを感じさせる『ダブルミンツ』ですが、ただのダークなBLマンガというわけではありません。ミツオとみつお、2人の共依存とも呼べる愛憎劇について、注目したいポイントを解説します。
消えた女の死体はどこに?
女を殺したというみつおの告白から再会し、学生時代の主従関係がよみがえるというストーリーの『ダブルミンツ』。殴り殺されて山の中に埋められた女ですが、みつおの自白で警察が捜査したところ死体はこつ然と消えてしまいました。 実はこの女はみつおが殺したと思い込んでいただけで、実際は死んではいなかったということが物語の中で明かされていきます。女はある場所にいるのですが、その居場所を知ったみつおが逆上するシーンは必見です。
2人のみつおの関係
みつおとミツオの関係は、事件を機に大きく変化していきます。学生時代のいじめから発展した主従関係よりもエスカレートして、セックスと暴力を交えて加速していくのです。 同じ名前を持つ者同士、通じ合って強く結ばれていく2人。学生時代からみつおに執着していて段々と道を踏み外していくミツオと、ミツオを支配しながらもどこか恐怖しているみつおの関係に注目です。
物語の結末
高校時代にみつおは「おカオにキズが残ったら責任とんなきゃだしな」という言葉を発しています。また、顔を殴られたミツオが「責任取れよ」と言い放つシーンもあり、これが結末に関係する伏線となります。 作者は「名前が同じであるということは正体が同じであるということ、つまり同じ人間であるということ」と語っていました。みつおとミツオ、同姓同名の2人は一つになれるのでしょうか。 2人がたどる運命がどのような結末になるのか、エンディングに向かう怒涛の展開は見逃せません。
2人のミツオの選択と結末を見届けよう
『ダブルミンツ』は、中村明日美子さんの作品の中でもダークでシリアスな作品です。まるで1本の映画を見ているかのようなスリリングな展開は、BLマンガの枠を超えています。 ラストシーンの最後の2ページを読み終えたとき、胸がいっぱいになること間違いなしでしょう。男たちが選択した未来がどうなるのか、結末をぜひその目で見届けてみてはいかがでしょうか。