『からくりサーカス』は藤田和日郎氏の代表作の一つです。2006年に完結し、2018年にアニメ化を果たした、今なお人々の記憶に残る不朽の名作と言えるでしょう。人間になりたかった『自動人形』と、彼らを滅ぼすために生きる人間『しろがね』の熱くて悲しい、そして愛を描いたドラマの一遍を、ストーリーやキャラクター、そして名言を通してご紹介します。
からくりサーカスのあらすじ
からくりサーカスは全42巻で大長編と言っても良いでしょう。いじめられっ子の少年『才賀勝』(さいがまさる)と、ゾナハ病に侵された武術家の青年『加藤鳴海』(かとうなるみ)の出会いから、この物語は始まります。
勝編
勝編は物語の中心人物である『才賀勝』と『加藤鳴海』、そして勝を守りに海外からやってきた『しろがね』(エレオノール)を中心に話が進みます。 大手家電メーカー『サイガ』の社長である『才賀貞義』の死後、息子である勝は全財産を相続したことから、他の親族に命を狙われることになります。 そんな勝を助けたのは、ゾナハ病という奇病に冒されながらも中国拳法の達人である加藤鳴海と、勝の祖父から勝を守るように命じられた銀髪の美しいサーカス芸人のエレオノールだったのです。 3人は殺し屋や親族の魔の手をかいくぐったものの、この時の戦いで鳴海は行方不明になってしまいます。
サーカス編
勝としろがねは、親族との戦いからしばらくした後、学校を辞め、住んでいく町から出て行く決意をします。殺し屋の残党から命を狙われ、学校の友人達を巻き込みそうになったからです。 行く当てのない勝としろがねが身を寄せたのは『仲町サーカス』という、団員3名の落ちぶれたサーカス団でした。 サーカスのメンバーや道具を集め、そしてファンを獲得していきながら、勝としろがねは徐々に精神的に成長していきます。
からくり編
『からくり編』では主人公が勝から鳴海へと変わります。生存していた鳴海は、ギイという男に助けられてフランスにいました。 記憶と片腕を失い、日本での出来事を何もかも忘れていた鳴海は、『自動人形』(オートマータ)とそれを破壊することを使命とする集団『しろがね』の因縁を聞くことになりました。 世界中の人間が、ゾナハ病と自動人形に苦しめられていることを知り、彼らとの戦いに身を投じます。戦っていくうちに身も心も人間性を失っていく鳴海は、やがて一つの可能性につきあたります。 それは日本にいるしろがね(エレオノール)こそが、ゾナハ病の元凶ともなった最初の自動人形『フランシーヌ人形』の生まれ変わりではないかという可能性です。 鳴海はかつての記憶を取り戻せないまま、エレオノールを殺すために日本へと向かうのでした。
からくりサーカス編
日本へやって来た鳴海は、エレオノールと再会します。エレオノールは鳴海が生きていたことを喜びますが、鳴海は日本での記憶を失っており、フランシーヌ人形の生まれ変わりだと思っているエレオノールに憎悪の感情を向けるのでした。 鳴海はエレオノールからゾナハ病の情報を聞き出し、殺す機会をうかがいます。そんな鳴海を前にエレオノールは戸惑い、悲しみますが、それでも好かれようと優しく接しようとするのです。 一方、勝は自分の力不足を実感し、黒賀村にある阿紫花家に居候し、修行します。修行の日々を送りながらも、今まで得られなかった人の温かさや優しさに触れて、この人達も守りたいという想いが勝を強くしていきました。
機械仕掛けの神編
勝、鳴海、エレオノールがそれぞれ日々を過ごす中、突如としてゾナハ病が世界中で活性化して世界中の人間に牙を剥きます。 もはや人間の中で動けるのは残っている『しろがね』とその血を分けてもらった者、そしてエレオノールと長い間一緒に過ごすことでゾナハ病に免疫がついた仲町サーカスの面々のみです。 生き残った勢力をすべて注ぎ込み、ゾナハ病から人間を救うための最後の戦いの火ぶたが、切って落とされるのでした。
主な登場人物と特徴
からくりサーカスは勝・鳴海・エレオノールの3人を中心に物語が動いていきます。主な登場人物と、その経歴や作品での立ち位置などを見ていきましょう。
才賀勝
この作品の主人公の一人で、小学5年生の男の子です。父親は大手家電メーカーである『サイガ』の社長であり、その莫大な遺産を受け取ることで、親族達から命を狙われることになります。 気弱で内向的な性格で、元いた学校ではいじめられっ子でしたが、鳴海やエレオノール、そしてたくさんの出会いを経て強くたくましく成長を遂げていくのです。 仲町サーカス団に入団後は、自らも強くなるために人形繰りを覚え、自動人形との戦いに身を投じていきます。
加藤鳴海
中国拳法を使う19歳の青年で、この物語のもう一人の主人公です。正義感の強い熱血漢で、ゾナハ病にかかりながらも勝のために奮闘します。 行方不明となった際に記憶を失い、その後は世界中でゾナハ病と自動人形によって苦しめられる人々の姿を目にしました。そして彼は、例え人々から恐れられる悪魔となっても自動人形を全て破壊すると決意したのです。 戦いの中でフランシーヌ人形にまつわる秘密を知り、そしてすべての元凶と思われるエレオノールと日本で再び向き合うことになります。
才賀エレオノール
本作のメインヒロインです。日本に来たときは『しろがね』と名乗っており、後にエレオノールという名前であることが判明します。 幼少期から人形繰りの英才教育を受けていた彼女は、勝の命を守るように命令を受け、マリオネットの『あるるかん』と共に来日しました。 当初は冷たく人形のような性格でしたが、鳴海や勝との出会いが彼女を大きく変えていくきっかけになりました。仲町サーカスの面々からも影響を受け、次第に人間らしく変化していくのです。
仲町信夫
勝が身を寄せることになった仲町サーカスの団長です。日本初の『石食い』という芸の他にもさまざまなサーカス芸を持っています。 ある事件をきっかけにサーカスは廃業に追いやられていましたが、勝やエレオノールとの出会いをきっかけに、サーカスを再興し、勝の保護者代わりとなって、彼にサーカスの厳しさを教えました。
ギイ・クリストフ・レッシュ
フランス人で、美しい女性を見かけたら声をかけずにはいられないプレイボーイですが、彼も『しろがね』の一人です。瀕死の状態だった鳴海を助け、彼をしろがねへと引き入れ、戦うことを決意させた人物でもあります。 幼少期のエレオノール、黒賀村での勝に人形繰りを教えた人物でもあり、彼自身も『オリンピアの恋人』と呼ばれ、自動人形にすら恐れられる凄腕の人形繰りです。 フランシーヌ人形とは浅からぬ因縁がほのめかされ、それは物語終盤で判明することになります。
ルシール・ベルヌイユ
最古の『しろがね』であり、実年齢は200歳を越えています。合理的で冷徹、時には人間を容赦なく見捨てる判断を下す人物です。 その能力は確かで、鳴海とギイと共に旅をし、常に冷静な判断で彼らを助けていました。自動人形に目の前で息子を殺され、もてあそばれたことに対する復讐心が、彼女の動力源です。
梁明霞
梁明霞(リャンミンシア)は、鳴海の拳法の姉弟子、そして鳴海の師である剣峰(チャンフォン)の娘でもあります。女優でしたが、剣峰がゾナハ病に倒れたことから自動人形との戦いに身を投じていくことになります。 当初は鳴海に対し、弟のような感情しか持っていませんでしたが、共に戦ううちに異性として惹かれていることに気付きます。
阿紫花英良
阿紫花英良(あしはなえいりょう)は、勝を殺すために親族から雇われた殺し屋でしたが、後に勝に雇われ直すことで味方となります。人形繰りも卓越しており、自動人形をして称賛させるほどでした。 金で動く合理主義な殺し屋ですが、意外と情に厚く、弟の平馬(へいま)を可愛がっていました。誘拐事件後は一時海外で暮らしていましたが、しろがねからの要請で自動人形との戦いに加わることになるのです。
フランシーヌ人形
2人の錬金術師兄弟『白金』と『白銀』が愛した『フランシーヌ』という女性を模して作られた、最初の自動人形です。 自動人形は全て彼女に従って動いています。『笑う』ということの意味がわからず、その意味を求めて世界中で惨劇を繰り返していましたが、日本にてその答えを知ることになったのです。
白金
自動人形の生みの親です。フランシーヌに恋をしていましたが、兄に彼女を奪われたことをきっかけに凶行に走ります。 フランシーヌを略奪して逃亡した後、フランシーヌを失うことになります。彼女の死を滞在先の村人の迫害によるものだと誤解し、最後まで彼女の真意に気付けないままある計画を建てたのです。
からくりサーカスの基本情報
からくりサーカスの基本情報についておさらいをしていきましょう。
連載誌や作者
からくりサーカスは『週刊少年サンデー』で1997年から2006年まで9年ほど連載されました。コミックスは全43巻です。2018年にアニメ化されたことがきっかけで再び注目が集まりました。 作者は『藤田和日郎』氏です。他の代表作には『うしおととら』や『月光条例』などがあり、現在は『双亡亭壊すべし』を同雑誌で連載しています。
名シーンや名言が多く緻密な設定が人気
からくりサーカスの魅力は、43巻の長編の中に張り巡らされた綿密な設定と伏線です。作者の藤田氏がもっとも得意とする分野と言えるでしょう。 からくりサーカスは、自動人形にまつわる歴史をなぞっています。錬金術師白兄弟の確執から始まり、フランシーヌ人形制作の秘話、ゾナハ病、勝の祖父である正二とフランシーヌ人形との関わりなど200年の歴史全てが作品を作っています。 そのストーリーの綿密さが、登場人物達を敵味方問わずに引き立たせているのです。名シーンや名言は、そんな設定や登場人物達の立場が理解できるからこそ映えます。
からくりサーカスで人気の名言
からくりサーカスには、登場人物の生き様を象徴するさまざまな名言があるのですが、その一端をここで紹介します。
才賀勝 黒賀村での名言
まずは、主人公である勝の名言です。阿紫花家の子供はみな養子ですが、その中の一人『れんげ』は、本当の両親との思い出の場所だった『れんげ畑』のことが忘れられませんでした。 れんげは養子であることに引け目を感じていて、人生に対してもどこか諦観していました。れんげ畑を探しに行こうと言った勝に「自分になんかお花畑は似合わない」と言いますが、勝はこう返します。 「似合うよ。幸せが似合わない人なんて、いない」 勝の子供らしい真っ直ぐな言葉をきっかけに、どこか投げやりだったれんげは変わっていきます。
加藤鳴海 サハラでの名言
サハラ砂漠では、自動人形たちの中枢である『真夜中のサーカス』としろがねの総力をかけた大決戦が行われました。 鳴海はその戦いの中で仲間を次々に失い、そして最古の自動人形の一人であるアレッキーノに敗北し倒れます。仲間のマリオネットのパーツを使って復活した鳴海の姿は、もはや人間とはほど遠いものでした。 そんな鳴海をアレッキーノは軽蔑し、死ぬからこそ美しい人間だった君が、今はその人間ではないと言い放ちます。それに対して鳴海はこう返しました。 「死ぬから人間はきれいなんじゃねぇ!にっこり笑えるから、人間はきれいなのさ」
才賀勝 グリポンに向けた名言
グリポンは『フェイスレス』によって造られた自動人形でした。フェイスレスに尽くし、彼のためになることが存在する意味だったのです。 そんなグリポンはフェイスレスによって不要と判断され、分解されてしまいました。グリポンは、自分をどうするかは創造主サマのお心次第で、どうされても文句は言えないと言いますが、勝は言い返します。 「自分で考える物は、モノじゃない。造ったところまでは神さまのお役目...なんの糸にも操られずに自分で立って...ちゃんと生きてちゃんと死ぬのが、ぼく達の役目だ!」
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からくりサーカスがどのような作品なのか、まずは無料試し読みで知ってみてはいかがでしょうか? 試し読みの方法について解説します。
からくりサーカスの試し読み
からくりサーカスを含め、各コミックを31ページほど試し読み可能です。気に入ればそのまま購入もできますので、利用してみてはいかがでしょうか。 『からくりサーカス』のお試し読みはこちらから!
まとめ
藤田和日郎氏の代表作の一つである『からくりサーカス』は、綿密な設定と、それを背にした濃厚な登場人物たちが魅力の作品です。自動人形としろがねはどちらも悲しい物語を背負っていて、それがいっそう読者の心を動かします。 すべての設定や人物達の思惑が集約していくクライマックスは本当に読み応えがあって魅力的です。エレオノールと鳴海、そして勝がどうなったのかを、ぜひ見届けてください。