超ヒット作『鋼の錬金術師』の荒川弘先生が、『週刊少年サンデー』にて連載中の『銀の匙 Silver Spoon』。主人公は農作業に無関係の一般家庭の次男・八軒勇吾。寮目当てで入学した農業高校で苦悶し成長する、酪農青春グラフィティ。命をいただくこと、また農業が抱える厳しい現実について深く考えさせられつつも、荒川弘ワールド全開で笑いあり涙あり。そんな『銀の匙 Silver Spoon』の魅力とは?
『銀の匙』とは?
累計発行部数1500万部突破の、荒川弘先生による酪農青春グラフィティ。 荒川弘先生は農家生まれの農業高校出身者であり、卒業からマンガ家になるまでの七年間の実体験を元にしたエッセイ漫画、『百姓貴族』も並行して連載している。 「命をいただくこと」「食べること」の本質に迫り、農畜産物を消費者と生産者の視点から描いている。八軒が抱える過去のトラウマや家族とのわだかまり、漠然とした将来への不安。それらを農家出身で厳しい現実と向き合う同級生たちと共に乗り越えていく。 石川雅之先生の『もやしもん』やヨシノ サツキ先生の『ばらかもん』が好きな方はぜひ。
あらすじ
大自然に囲まれた大蝦夷農業高校に入学した八軒勇吾。元は中高一貫の進学校で勉強していたが、優秀な同級生や兄と比べて思うような成果が出せず、自信を失っていく。そんな中で担任が進めたのが農業高校への進学だった。 生徒の大半が農業従事者であり、一般家庭出身の八軒勇吾を待ち受けていたのは、これまでの常識が全く通用しない環境だった。 全国一の面積を誇る広大な敷地、授業が始まるなり子牛を追いかけて迷子、「人間は家畜のドレイだ」と豪語する教師陣、容赦のない労働、信じられないほど薄っぺらい教科書、実習ではニワトリが肛門から生まれると知って驚愕…などなど。 仲間や家畜たちに支えられたりコケにされたりしながらも日々奮闘する、汗と涙と泥まみれの酪農青春グラフィティ。
登場人物・キャラクター
八軒 勇吾(はちけん ゆうご)
大蝦夷農業高等学校(以降、エゾノー)酪農科学科の生徒。農業に関しては素人、馬術部。五角形の眼鏡をかけ、学生服の下にパーカーを着用するのが基本スタイル。一部の友人からは「ハチ」と呼ばれる。 進学校の激しい学力競争に敗れ、また兄は東大を難なく合格する天才であった為、コンプレックスを抱く&父親ともうまくいかず心を病んでしまう。当初は将来への展望も夢もなく無気力の塊であり、明確な夢を持つ周囲の生徒達に引け目を感じていた。 お人好しで頼みごとを断れない面があり、周囲からは「人にかまって損をするタイプ」「いい人」「断らない男」と評される。 無気力だった彼だが、農業従事者ではないがゆえの先入観のなさからディスカッションの議題を引き出しやすく、責任感の強さも相まって徐々にアクティブな性格へと変化。エゾノー1年生のキーパーソンとなっていった。 クラスメイトの御影アキに好意を抱く。
御影 アキ(みかげ アキ)
エゾノー酪農科学科の生徒。牧場の一人娘で趣味・特技も乗馬。整った顔、気さくな笑顔、スタイル抜群とハイスペックな女子であるが、残念ながら頭はあまり良くない。 実家には農耕馬がおり、幼い頃から乗馬クラブに通うなど高い乗馬技術を持つ。学園祭(エゾノー祭)では「ばんばレース」の騎手も務める馬術部のエース。 ※銀の匙でばんばレースが取り上げられたことにより、ばんえい競馬が大幅黒字に。 馬に関する仕事に就きたいと思いつつも、将来は後継者として期待されていたため、家族に本当のことを言えなかったアキ。八軒の後押しでついに自身の本心を家族に打ち明け、大学を出ることを条件として認められた。だがお世辞にも頭の良いとは言えない彼女が国公立大学に入ることは難しく、面倒見の良い八軒はアキの家庭教師を買って出ることに。 恋愛に疎く、周囲からは「ひどい女」「ニブい」などさんざん言われるが、受験勉強を機に二人の仲は進展するのか…
駒場 一郎(こまば いちろう)
エゾノー酪農科学科の生徒。牧場の長男、野球部。御影アキの幼馴染で「いっちゃん」と呼ばれている。 鋭い目つきで高身長、体格良しの好青年。武骨な物言いと、やや無愛想な表情であるが、妹が二人いて面倒見が良く、実直で礼儀正しい一面も持つ。 数年前に父を亡くしたため、高校卒業後は実家の酪農業を継ぎ、独りで切り盛りしている母親の力になりたいと考えている。その一方で甲子園に出場してプロ野球選手になり、あまり裕福ではない実家の経営を立て直したいという夢も抱いていた。
常盤 恵次(ときわ けいじ)
エゾノー酪農科学科の生徒。鶏農家の息子で、大きな三白眼。教わったことを3歩歩いただけで忘れるほど頭が悪く、数学は壊滅的。だが鶏の生態や飼育法などの知識は豊富で、一学期中間考査では「畜産」で満点をとったり、犬の食費を稼ぐため募金箱を首輪につけるなど勉強以外のかしこさがある。 悪気はないが考えが浅く、金遣いも荒く調子に乗りやすい。夏休み明けには頭髪、服装、持ち物で役満の罰を食らってしまい、頭髪丸刈りと一週間強制労働の刑に処される。
相川 進之介(あいかわ しんのすけ)
エゾノーの生徒。長身で目が細く穏やかな風貌、ホルスタイン部。獣医を目指しているが小学生の時にひどい牛の手術を見てから、血や臓物の類がトラウマに。授業中にショックで失神してしまうこともある。 獣医師を目指す者としては致命的な欠点だと自覚しており、克服しようと努力を重ねる。ついには自分たちで育てた豚の屠殺現場に立ち会い、現場の屠畜検査員に技術を乞うほどの根性を付ける。
稲田 多摩子(いなだ たまこ)
エゾノーの生徒。柔道部、「お金が大好き」と明言するしっかりもの。実家は共同経営型の大規模な牧場で経営に口を挟み、実父から社長の座を奪おうと考える野心家でもある。しかし意地汚いというわけではなく、きっちり管理した上で利益を出すのが好きというタイプなので、周囲の人間からは厚い信頼を得ている。 通常時とダイエット時の二形態あり、通常時は全体のシルエットが卵のような肥満体型、ダイエット時にはかなりの美少女となり、男性陣から圧倒的な支持を受ける。が貧血になるため長くは続かない。
見どころ
(1)心にしみる美味しさ、心に残る命の重さ
実習で面倒を見ていた子豚に、周囲の反対に遭いながらも「豚丼」と名付けて可愛がる八軒。食肉となるべく肥育されることへの割り切れない思いを抱え続けるために。 二学期に入ると大人に成長した「豚丼」と再会、出荷を迎える。夏休みのバイト代で「肉になった「豚丼」の購入を富士先生に申し入れる。 命をいただく。そんな大仰なことじゃない。 でも、とっても大切なこと。豚舎で可愛がっていた豚の豚丼が肉になって帰ってきた。 そして八軒は、学ぶ。命の重さを。その手で、その目で、その胃袋で… そして季節はめぐる。夏から秋へ… 心にしみる美味しさ、心に残る命の重さ。
(2)グルメ漫画を越える!? 最強の飯テロオンパレード
北海道の農業高校だからできる、とれたて新鮮な食材を使った絶品料理の数々。農作業のあと、シンプルに卵かけごはん。焼きもろこし、焼しいたけ、ジャーマン・ピサ。自家製ベーコンにスカイツリー豚丼… 飯と肉の比率が邪道だ!いや、肉は正義だ!
(3)酪農の厳しい現実、それに対する登場人物の葛藤
なんだかんだキツイけど酪農って楽しい!農業って案外いいかもしれない!そう思っていた…でも、現実は素敵なことばかりじゃない。 苦しくて悔しくてどうにもならないこともある。甲子園への道が閉ざされ、実家の経営を立て直したいという夢も散った駒場一郎。牧場倒産、高校中退と厳しい現実が容赦なく襲い掛かる、それでも前を向く駒場の姿にやるせなさを覚えつつも元気がもらえる。
メディア情報・受賞歴
TVアニメ
フジテレビの深夜枠「ノイタミナ」にて放送。ばんえい競馬の「ばんえい十勝」とのコラボレーションイベントなども行われた。
実写映画
2014年に全国ロードショー。中島健人、広瀬アリスなどが出演。監督は吉田恵輔、本作の舞台である北海道にて撮影された。
受賞歴
・「マンガ大賞2012」第1位 ・「全国書店員が選んだおすすめコミック2012」2位 ・第3回「ブクログ大賞」マンガ部門大賞 ・第58回「小学館漫画賞」少年向け部門受賞 ・農林水産省主催「Contents Award of Japan Food Culture 2013」大賞 ・SUGOI JAPAN Award 2015マンガ部門第2位
まとめ
いかがでしたでしょうか。タイトルの『銀の匙』は八軒が通う高校の食堂のシンボルマークであり、欧米では「幸福を招く」、「裕福な家に生まれてくる」という意味を表します。日々当たり前にいただいてる命について考える機会をくれる『銀の匙 Silver Spoon』、今後の展開が楽しみです。