書名が示すように、江戸の天保年間の繁昌を写したものであることはいうまでもないが、単にその表面を書いたものではない。大江戸の繁華をつくり出した根底をとらえ、それをえぐり出した、卓抜な文明批評なのである。しかも、著者は、それを生(なま)の理論としてではなく、江戸に生きる人間の姿態を描いた作品として、われわれに提供している。著者は儒者であるが、かれの学問は、幕府の御用哲学の朱子学や学者の業績のための考証の学ではなく、人間としての儒学であった。上巻では「相撲、吉原、芝居、富くじ、女義太夫、両国の花火、易者、書画会、火事、縁日、髪結い、古着市、魚市、銭湯、葬式、かげま茶屋、猪牙舟」などを、下巻では「神仏の開帳、祭り、侠客、妾宅、永代橋、書肆、寄席、長屋、吉原火災、学塾、百花園、角(かく)乗り、千住、品川、深川、本所、茶店」などを取り上げてある。漢文の原本は、訳者によって読みやすい本となった。
