中世のあらゆる雑学が妖艶で怪奇な渦をまいている本作の主要人物は、ジャンヌ・ダルクを助けて数々の武勲を立てた西フランスの王侯ジル・ド・レーである。彼は愛国の処女の火刑ののち、爛熟した豪奢な生活をおくる。そのうちに金に欠乏してきて錬金術に興味をおぼえ、その帰結として悪魔礼拝に走った。そして、残忍卑劣な罪悪の限りをつくし、ついに宗教裁判にかけられて焚刑に処される。『彼方』はこの物語を骨子として、中世のあらゆる学問、すなわち錬金術、悪魔宗、呪詛、占星術、黒ミサなど、いわゆる神秘学の伝統を次々と暴露する。その凄惨、その淫靡は、一読肌に粟を生ぜしめる。しかし、「狂人か兇賊か聖者でなければ興味がない。その他はすべて俗衆だ」と喝破した世紀末フランス耽美派の雄ユイスマンスとしては、これは当然の帰結であった。
