認知心理学や神経科学などの広範な「学習の科学」に基づき、教育現場において多大な時間やエネルギーをかけることなく、授業の質と学生の学習効果を飛躍的に高めるための実践的な指導法を提案する一冊。
従来の教育改革や授業改善の多くは、コース全体をゼロから再構築するようなドラスティックな変更を求めるものが多く、多忙を極める教員や非常勤講師にとって、それを実践することは容易ではなかった。著者自身も、過去に文字を詰め込んだスライドでの講義や、ただ「面白い」だけの授業を展開して学生を眠らせてしまうといった数々の失敗を経験し、改善策に頭を悩ませてきた。
しかし、近年の研究は、授業全体を刷新しなくても、設計やコミュニケーションにおける「小さな決定」や「わずかな介入」が、学生の知識定着や成績にポジティブで強力な影響を与えることを証明している。これが、アメリカのプロ野球における堅実な戦術になぞらえて本書が提唱する「スモールティーチング(スモールボール)」の本質である 。
具体的に、スモールティーチングの戦略は以下の3つの形式のいずれかに該当する 。
1.短い時間(5~10分)で実施できる教室内の活動:授業の最初や最後の数分間を使い、学生の注意を引きつけ、学習内容を定着させる介入 。
2.授業1回分の介入:学期中に1~2回程度、授業1回分を丸ごと使って行う特別な活動(1分間で主要な内容をまとめる「ミニッツ・シーシス」など) 。
3.コース設計やコミュニケーションの小さな修正:課題の指示文や学生へのフィードバック、連絡メールの文面を少し見直すことによるアプローチ 。
これらの方法はすべて、準備や採点にほとんど時間がかからないため、あらゆる教員が「明日の朝の授業」からすぐに試すことができる。また、数式を扱う授業からライティング、対面講義、オンライン授業、ハイブリッド型にいたるまで、専門分野や授業形態を問わず応用可能な普遍性を備えている 。
本書の構成は、「知識」「理解」「インスピレーション」の3つのパートから成り、それぞれの章が実験室実験と実際の教育環境の双方で効果が実証された科学的原則(予想、思い出す、つなげる、練習するなど)に基づいて体系化されている。特にこの第2版では、学生が「自分はこの教室に居場所がある」と感じられるようにするための「所属意識(コミュニティ意識)」を高める戦略や、学習を他者へ「説明する」モデルが大幅に拡充された。
「授業を全面的に作り直す時間はないが、学生の学びをより深めたい」と願うすべての教育関係者にとって、本書は翌日から実践できる具体的かつ強力な指針が満載の実践書 。

