初舞台を一晩で消された雇われ首席ですが、楽団で弓を返しつづけたら、賛助者が毎月三日に金を入れて最後列で聞いていかれます

初舞台を一晩で消された雇われ首席ですが、楽団で弓を返しつづけたら、賛助者が毎月三日に金を入れて最後列で聞いていかれます

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譜面台の高さを直してから、私は三十四人の顔を順に見た。八つ目の楽団の、最初の稽古だった。深水奏、三十。十八の年、四月に首席が決まっていた楽団が、十一月三日の打ち切りの通告から七日で解散した。決まったのは一晩だ。私の初めての本番は、来る前に消えた。それから十二年、私は雇われの首席をしている。一年ごとに、自分の値段を人に決めてもらってきた。三ツ木で八つ目になる。弦は一組で一万二千円。本来なら年に十二回替える。今年替えたのは四回だ。松脂の缶は二千四百円で、二年に一つの割で使う。楽団の年の予算は千九百万で、市の助成が八百。事務長が一年で百三十軒を回って、残りの八百を集めてくる。そこへ、年額千八百万の賛助が入る。振込は毎月の三日。百五十万ずつ、十二回に分ける。刷り物の裏の賛助者の欄には、五つ目が空いたままになっている。名前を出さない人だからだ。契約の席で、私はその名前を見た。一柳宗一郎、四十七。十二年前に、一晩で楽団を一つ消した当人だった。私は面と向かって日付を言った。この人は詫びも否定もせず、金額と期日だけを読み上げて席を立った。一柳さんは、この十年、うちの定期に毎回いらしてました。年に二回、十年で二十回、いちばん後ろの席で聞いて、終わったら黙って帰る。挨拶もしない。客演の六十万が出ない月、この人は弦の張り替え代を自費で出すと言う。私は断る。決められる側が、決める側から物をもらうわけにはいかない。代わりに自分で頭を下げて、客演を二十五万で呼んだ。翌週、私は別の楽団の賛助を切る場に同席させられる。切られる側の楽長は、何も言わずに席を立った。この人はこれを四十一度やってきたのだという。事務長は自分の職を守るために、十二年前の件を臨時理事会で言い立てて、賛助の白紙撤回を図る。私の十二年を、あなたの議題に使わないでください。私はそう言って、自分の報酬を七万下げる案を出した。二十八万が二十一万になる。十八の年に提示されていた額と、同じ数字だった。三月六日の解散決議が流れ、覚書の使途の縛りが消え、月額が倍になった紙が翌朝届く。私は首席を降りると言ったばかりだった。弓を返す場所を、四分の一だけ後ろに。十二年、私が守ってきたのはそれだけです。TL長編小説・全10章完結。
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    8月17日発売予定

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