弟子をやめられた山の案内人ですが、五年、縄を繕いつづけたら、その男が月の初めの三日のうちに必ず封筒を持ってこられます

弟子をやめられた山の案内人ですが、五年、縄を繕いつづけたら、その男が月の初めの三日のうちに必ず封筒を持ってこられます

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封筒は帯もかけずに、私の膝の上へ置かれた。峰見小屋の裏手である。乾いた土に丸太を横倒しにしただけの腰掛けがあって、私はそこに座って縄を膝に乗せていた。五千九百円だろう。違う。今日は五千七百。控帳の残りの欄に、私は零ではなく横棒を一本引いた。五十七回目。五年と一か月かけて、三十四万二千円の弁済がこれで終わる。宇津木涼子、三十九。二十から山にいて十九年、椈平の詰所の長を二期六年やっている。樫村悠仁、二十九。五年前まで私の弟子だった男が、その日、弟子をやめると言った。今日から自分の名で客を取る。一日一万八千円で。毎月、月の初めの三日のうちに、樫村はこれを持ってくる。五年、一度も忘れなかった。そして五十七回とも、きっかり百円だけ足りない。控帳を繰り直して、私はようやく気づく。五十七回、一度も端数が揃っていない。揃わないように置かれている。縄は五十メートルで四キロある。真ん中に一メートル二十だけ太くなったところがあって、薄茶の中に色の違う糸が七つの帯になって並んでいる。もう五年、私はほとんど毎晩それを繕っている。糸の玉は一玉三十メートルで、二か月でなくなる。樫村が初めて自分の名で客を連れた日、私はその判断七つに値をつけて五千二百円を請求した。払わない、とこの男は言った。小屋じまいが十七日早まって、私の七件、三十五万円が消える。そのうち四件を、この男が自分の名で拾った。じゃあ、あんたが減ればいいんだな。詰所の集まりで、私は次の期の長を引き受けないと告げた。十一月三十日、一晩で七十センチ降る。二人で峰見の六人を担いで、鞍部で、五年繕った縄が凍って裂けた。天幕の中で、私は五年前の請求額の内訳を初めて言う。人手は来ていない。車は私の車だ。本当に無くなったのは、縄だけだ。五万四千円だ。下小屋の板の間で、この男は抱きたいと言った。私は受けた。行為のあと、掌のまめを九つ数えられて、その静けさのほうが怖くなった。雪解けの鞍部で裂けた縄を回収して、焼却場で燃やす前に、糸を上から一層ずつ解いていく。三十一層の下から、白い木綿が出てくる。きっかり百円だけ足りなかった訳は、そこで言われます。TL長編小説・全10章完結。
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    8月19日発売予定

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