事故で一人だけ不問にされた機長ですが、点検の項目を読み上げつづけたら、同じ資格の機長が二日に一度表を拾っておられます

事故で一人だけ不問にされた機長ですが、点検の項目を読み上げつづけたら、同じ資格の機長が二日に一度表を拾っておられます

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その書き方、まだ直ってないのか。待機室の長机の向こうで、立花隼人が笹倉茉莉の点検の記録を裏返しにして持ち上げた。油圧の欄だ。あんたは点検で見たことしか書かん。腹が立ったことも嬉しかったこともそのまま声量になって出るので、この人の機嫌は建物の端からでも分かる。中瀬空港。機が七つしかないので、一日に出る便は十六。滑走路は二千四百メートル、管制塔は二十八メートル。笹倉茉莉は勤続十二年の機長で、右の席にも左の席にも座る。翌日の割り当てに、左の席に立花隼人、右の席に笹倉茉莉。二つの名が横に並んでいる。この並びを最後に見たのは五年前だ。五年前の十一月十九日、四度目の進入で機は接地して滑走路を外れた。記録の上の当事者は立花機長一人で、笹倉機長は不問。立花の記録には、いまも操縦不適の但し書きが消えずに残っている。笹倉の仕事は、右か左の席に座って、点検の項目を読み上げて、降りて、日誌に一行書くことだ。十年前の十一月一日に綴じた黒表紙の日誌は、二百四十頁ある。その日誌の行と行のあいだの狭いところに、細い字が横に走っていた。三行に一行の割で、誰かが書き足している。教官の推薦から四回外れた夜、この男は初めて自分の側の話をした。取っとらん。捨てられるのを拾っとった。毎日じゃない。二日に一度くらいだ。俺は表を見て、あんたが今日どこにおるかを見た。捨てられるのを拾っとった。千五十日ぶんの割り当て表が、この男の部屋にある。報告の再開は四行の掲示で見送られ、五年前の記録は倉庫の奥のままだ。新しい訓練生が現れて、規程の条文を盾に五年前の記録の開示を請求する。笹倉は五月十四日という期日を自分で切った。四十一人の前で、自分の口で言う。七月二十九日の雷雨の進入で、笹倉は右席から復行しますと言い終えてから引いた。立花は何も挟まなかった。十一月三十日、一晩で七十センチの雪。二人で峰の六人を担ぐ夜も、六月の上の風で訓練が崩れる二十六分も、二人は同じ送話器を交互に握って、一語も違わない指示を送りつづける。同じ頁の一行目と二行目が、五年、消しゴムの跡もなく食い違ったまま残っている。強く書いた側が、事実でないほうを書いています。TL長編小説・全10章完結。
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    8月13日発売予定

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