判を自分で否定した新社長ですが、木の札に名を書いて建屋へ入りつづけたら、地場の工場長が十四日ぶん立って見ておられます

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その窓、開くの。総務課長は紙束を胸に抱えたまま、会議室のいちばん奥の窓を見上げた。開けると工場の音が四つに割れて入ってくる。何を叩いているのかは分からない。壺井真央、三十六。東和機工が十一億で買った南浦製作所へ、社長として送り込まれた。赤字は一億四千万。三年もつと本気で思っている人間は、こっちには何人もいない。この工場の不良率は、千個に四。八工場の中で群を抜いて優秀だ。壺井はその数字を疑っている。十四年、数字を数え直すやり方でやってきて、その一枚に三十六回、自分の判を押した。判を自分で否定した人間は、送り込まれた三人のうち壺井だけだ。大牟田鉄平、四十五。十八で入って二十七年、南浦製作所の工場長。三十二年前の覚書を盾に、勤務時刻の変更を止めてくる。事務棟の人間も、木の札に名前を書かなければ建屋へ入れない。九か月で百八十回近く書いた。建屋の東の壁だけが白く塗り直してある。西日避けです、と説明されたが、東側に西日は入らない。潜り戸の鉄に素手を当てると、中の震えが数えられる。栓ゲージいいます。こっちが通る側、こっちが通らん側。無資格で旋盤に手をかけた壺井は、体ごと外された。壺井は隣の市の講習所へ十日通って甲を取る。大牟田は甲を三年停止され、七月三十一日に工場長を離れて、誰も入りたがらない三番の台に入った。十四日、壺井は二千二百四十個を一人で全数測る。六十七個。本当の不良率は千個に三十だった。ほかの八工場より、悪い。原簿を書き写すと、プラス四が一つも出てこない崖が現れる。大牟田は書き換えの指示を認めて、自分ひとりの責任だと申し立てる。五年目の若い工員が正面からそれに反対して、現場が二つに割れた。あなた、十四日ぶん、毎日ここにいたの。おりました。四十四冊、七万行の原簿を数えて、書き換えの起点が誰の代だったかを現物で示すまで、この人はずっと立って見ていた。六十ミリの穴の、上に三、下に三。百分の八ミリの傾きを吸う当て具を、壺井は四本目でようやく削り上げる。渡す機会は何度もあった。十二月一日、入り時刻が二時間早まった初日まで。数字が悪くなるほど正しくなる工場のお話です。TL長編小説・全10章完結。
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    8月19日発売予定

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