御影紗代は膝を崩して壁に背をつけ、盆の上を四人の手が動くのを、順番に目で追っていた。川端の寺尾の家は、表が炭を商う店になっている。二階では盆が立つ。紗代は五年通って、一度も張ったことがない。他人の金を数えているだけだ。二十二。十七の年に父の御影宗佑が死んで、その日から紗代には後見人がついた。鷺沼玄一郎、三十六。川端で荷を扱う店の主で、報酬は取らず、離れに住んでいる。後見の期限は来年の春に来る。門の扉が三尺だけ開いているとき、それは話がある、という意味だ。六尺まで開いていれば何も訊かれない。閂が抜いてあるだけなら、この人はまだ川端の店から戻っていない。五年、紗代が坂を上ってくる前に、玄一郎が先に門へ出て、開ける幅を決めている。畳に紙が六枚並ぶ。家の勘定と、借りの全額。利は四月ごとに十一円二十銭で、元は百四十円。玄一郎は百四十八円で肩代わりを申し出て、紗代は断る。母の櫛は質から出せず、四円足りない。三軒に断られて、四軒目の柏屋で紗代は初めて頭を下げた。雇ってください。寺尾の帳では、月に四円ずつ。四月ごとに十一円二十銭の利。三十三円六十銭。数だけは五年前から紗代の頭の中にある。張らない女が盆の上の他人の金を数えつづけたのは、数えることしかできなかったからだ。昼までは量りで、客の持ってきた徳利へ柄杓で油を移す。一合、五勺、二勺。夕方からは帳を付ける。客ごとに行を分けて、日付を左に寄せて、締めの数を右の端に揃える。三銭の差で店が潰れる町で、紗代は初めて自分の手で数を作っている。文箱が二つ出てくる。期限のない委任状と、五年ぶん一度も使われなかった白紙が一枚。この人は五年前から知っていて、黙っていた。あの晩、この座敷に誰がいたのかも。二銭の紙が一枚あれば、五年が終わる。この人はそれを五年前から知っていて、一度も口にしなかった。雨で川が止まった日、二人は屋敷に二人きりで一日を過ごす。天井裏に残った三年前の手の跡。父の紙束。雨戸の削り。一間あった距離が、一尺になる。二軒長屋を二百円で売って、五百九十六日ぶんの借りを終いにするまで。最後に紙へ置かれる一字までのお話です。TL長編小説・全10章完結。
