東の家に席を外された秘書官ですが、割印帳に二重丸を打ちつづけたら、西の家の秘書官が私の訛りの出るたび紙に点を打っています

東の家に席を外された秘書官ですが、割印帳に二重丸を打ちつづけたら、西の家の秘書官が私の訛りの出るたび紙に点を打っています

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柏木の家の家政局は、母屋の二階の西の端にある。廊下には決裁箱が二十四。厚東藍、二十七。十九の年にこの家へ上がって、それからずっと書きものの側にいる。八年前に東の分家から席を外されてここへ回されたときも、六年前に自分の在の言葉を七人のうち四人に笑われたときも、藍は口で報告をしたことが一度もない。紙で出す。紙には順番が書いてある。割印帳は四百丁あって、この世に一冊しかない。写しを作ってはならないと決まっている。東から来た藍と、西の分家から送られてきた樅山恭介、三十一。この二人の印が揃わなければ、柏木の家の紙は一枚も動かない。家政局長は毎朝それを笑いながら確かめに来て、繰るだけ繰って帰っていく。藍は自分の受け持つ書類の隅に、小さな丸を書いて、その内側にもう一つ小さな丸を重ねて書く。これは私が引き受ける、という意味だ。誰にも教えていない。それなのに一年半ほど前から、この印の付いた紙は翌々日までに必ず片がついている。相手も同じことをしている。二人とも、それを口に出したことがない。晩冬、局長が二人を呼んで、三年ぶんの照合を命じる。相手方の落ち度を先に紙で出したほうが、この家に残る。東の分家の道の修繕で千二百六十円。西の分家の炭で二千五百二十円。同じ日に、二人は互いの家の抜きを掴んで、顔を見て告げ合ってしまう。封蝋で閉じた二通が、机の上に並ぶ。藍が三年ぶんの覚え書を三日で解読すると、恭介は差出簿の穴を十一件、何も言わずに埋めていた。留守のあいだの月次十九通も、どちらが書いたか分からない同じ書式で揃っている。局長がこの二人を組ませた理由は一つだけだった。口で通じない者どうしなら、紙が正確になるからだよ。藍の訛りは出た。出るたびに、恭介は紙の隅に点を打った。何のために打っているのかは言わない。中庭の欅の根方で指が手の甲に触れた日も、洋燈の芯を落とす晩も、この人は数を口に出さずに数えている。二重丸がいくつ、訛りがいくつ、一度で聞き取れなかった言葉がいくつ。数えているのは自分だけだと、藍のほうは思っていた。二人ぶん書く欄がないのよ、この家の紙には。書記局の主任はそう言った。十九で押し込まれた席を、自分の口で降りると言うまでの、二月から十一月まで。写しは作れない。それでも一冊を二冊にする方法が、一つだけある。TL長編小説・全10章完結。
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    8月17日発売予定

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