広間で立ったまま笑われた娘ですが、香蔵の鍵を預かって荷を検めていたら、香商が検めるたび市より先に荷を見せてくれます

広間で立ったまま笑われた娘ですが、香蔵の鍵を預かって荷を検めていたら、香商が検めるたび市より先に荷を見せてくれます

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鼻の利く無粋なお嬢さま。潮見の市でセラフィーネ・ドリンガーがそう呼ばれるようになって、三年になる。坂の町である。丘の上にドリンガー家の屋敷があり、坂を半時ほど下ると港の市が立つ。市の北側、日の入らない一町だけが香の店の並びで、真昼でも夕方のような色をしている。三年前、十九の春の婚約披露の席で、セラフィーネは贈られた練り香十二壺のうち一つの蓋を開け、客二十人の前でこれは混ぜ物ですと言い当てた。言い当てたうえで、一壺二十枚の品ですと値まで言った。婚約は一月ももたずに壊れた。持参金の金貨七十枚は箱ごと戻り、三年一枚も減っていない。年に十一の家から来ていた招きは二つになり、あの日の客のうち口をきいた者は三人しか残らなかった。彼女には前の生の記憶がある。焼けた蔵や割れた荷や沈んだ船の、失われた物に額を書き込んで人に言い渡す仕事だった。だから人の不幸を前にしても、最初に出てくるのが数になる。春の市の日、セラフィーネは北の並び三軒目、藍の暖簾の店で、八十と彫った札のついた壺を、松脂が三分の一と言い当てる。店の主人ハディム・ナウリは二十七。十二で隊商に入り、香を運んで十五年、一度も値を下げたことがない男である。彼は札を下げるかわりに棚の奥から本物を出し、同じ八十枚で売った。そのうえで、三年前あの広間へ十二壺を納めたのは自分だと自分から名乗り、あなたの見立ては正しかったと告げる。屋敷の香蔵の鍵と年に銀貨六百枚を父から任されたセラフィーネは、書付を三度書き直して四つの項を立て、店に置いてくる。荷を検める一度が銀貨十五枚。市より先に品を見せる一度も銀貨十五枚。同じ額を両側に立て、どちらからでもやめられる。やめるときは借りを最後の一行まで精算する。五日後、ハディムは待たせた五日ぶんの銀貨五枚を先に払い、その紙を受けた。夏の荷揚げ場で、二人は隊商の荷を検める。三荷で四十五枚を、彼は十五枚ずつ三つの山に分けて置いた。一つの山でも同じ額ですと言うと、同じ額ですが三度ぶんには見えませんと返ってくる。その日、彼は八年外したことのない木札を襟から引き出した。シャハラ。四代前、砂の中で水の匂いを嗅ぎ当てた者に家が与えた呼び名で、家に一枚しかない。持てるのは一人だけである。ただ、この人には荷の前でまばたきを二つするあいだ止まる癖があった。値を立てるときに一息止まる目利きなど、弟子のミナは四年で一度も見たことがないという。言い当てた娘と、値を下げない商人の帳が、最後の一行まで消えるまでの、春から初冬まで。異世界転生の恋物語・全10章完結。
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    8月15日発売予定

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