レオノーラ・ミュンツァー、二十歳。前の生では海のそばの町にいて、運送問屋の奥に座り、二十年のあいだ車と人を配っていた。板の上に線を引きつづけたその手つきを持ったまま、麦と関で持っている小さな領の娘として目を覚ます。十八の年に父から帳を預かって二年、領の割り振りも荷の順番も屋敷の当番も、彼女がひとりで引いている。去年の初夏、王都の夜会で、婚約者ディートマル・シュタインに客の輪の中央へ呼び出され、数を数えるしか能のない娘だと笑われた。返す言葉が一つも出なかった。輪がほどけたあと、飲み物の卓の脇で杯を数えていた。壁際には雇いの歩哨が四人立っていたが、その顔を彼女は一人も覚えていない。婚約はこの春に向こうから壊された。書面ではなく、共通の知り合いを三人ばかり経由させる壊し方だった。初夏、領境の三つ橋の宿場で、レオノーラは言葉の通じない流れ者を護衛に雇う。名はオルハン・タシュ。この国の言葉を一つも話さず、綱を切って暴れた荷馬を綱を引かずに止め、差し出された前払いの銀貨二枚を指の背でまっすぐ押し返して、当番表のまだ何も書いていない白い端を二度叩いた男である。使用人は十一人。彼女は砂利に指で図を引いて門と厩と裏手を教え、吊るした鉄の輪を叩く数で一日の六つの刻を教えた。ある夜半、交代を伝えようとして立てた指二本が、どちらの国の言葉でもない二人だけの符牒になる。夏、隣領の夫人が去年の噂を屋敷まで運んでくる。笑って受け流したあと、厩の藁束に一人でいた彼女の横に、オルハンは何も足さずに木の椀を置いていった。汲みたてにしては冷たすぎない水だった。夕方の交代の前に水を運ぶのが、その夏からの彼の癖になる。同じ夏、東の村の娘が二人、洗い物の桶を道に置いたまま消える。関は日暮れに閉まり夜明けに開く。その決まりの隙間を、草に埋もれた川沿いの古い道が埋めている。片言の三語では伝えきれないと知ったオルハンは、砂利に道筋を引いた。レオノーラがその朝、東の村の土へ引いたのと同じ形の線だった。彼女は当番表を三度書き直し、その紙を彼の手に押しつける。晩夏、帳面を一冊おろして、毎晩ひとつずつ彼の国の言葉を書き取りはじめる。水、火、馬、二、三、四。三度言い直させて、四度目にようやく頷かれる。井戸端で見た彼の背には、肩甲骨の下から腰の上まで、白く縮れた凍傷の痕が広がっていた。秋、王都へ出る娘のために、レオノーラは小部屋の床に炭で去年の広間を引く。柱を八本、卓を三つ、西の隅に大きな絵。壁際の歩哨の印を四つ。引き終えた図の中へ、水を持ってきたオルハンが線を一本も踏まずに入っていき、西の隅の四つ目の印の上で、壁に背をつけて止まった。選ばれる側の席に二年座っていた娘が、自分の足で立ち上がるまでの、初夏から冬まで。異世界転生の恋物語・全10章完結。
