褒められて値を下げられた綿打ち屋ですが、客の前で綿の目方を量ってみせたら、隣の縫い手が十年毎日この土間を通っていきます

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「はる。表の戸が鳴った。今のは風だよ」——寝たきりの祖母は、痛いとも辛いとも言わない。聞こえた音のことだけを言って、返事を待たずに口を閉じる。真木はる、二十九。十七でこの土間に入って十二年、綿打ち屋を一人でやっている。祖母のぶは七十八で、二年前に腰を折ってから寝間を出ない。敷布の下へ手を入れると生温い。蒲団の腰のあたりだけ指が入るほど窪んで、饐えた匂いがした。中の綿は九百匁あって、打ち上げたら八百十匁になった。減った九十匁の灰色を、この人は二年、背中の下で押していたことになる。はるは打ち上がりを二百七十匁ずつ三枚に分け、朝と暮れに入れ替える形にした。初冬、西の角の蒲生佐平が、二百文の打ち直しを百文でやると町に触れて回った。愛想のいい男で、腕は真木さんですと人前で言う。言ってから、真木の蒲団は戻ってきても目方がちっとも減らないと付け足す。減らないのは綿に霧を吹いているからだと町が言い出して、月に二十件あった注文が六件まで落ちた。はるは客の前で竿秤を出した。持ち込みを量り、打ち上がりを量り、落ちた灰色の溜まった屑籠を客の前へ置く。「西の角の話はしません。うちが見たのは、うちの秤だけです」隣家の厚東きぬ、四十六。仕立てを三十年やっていて、返事を待たずに戸を引く。この十年、きぬは毎日この土間を通っている。越してきた年の暮れに真木の井戸が凍って、それから朝と暮れの二回、湯を運ぶのをやめない。断っても断ってもやめないので、はるは理由を訊いたことがない。訊けば答えが出てしまう。打ち場の綿埃で祖母が咳き込み、はるは鴨居に濡らした麻の垂れを、床から三寸空けて下げる。裏店で火が出て五軒が焼けた晩には、売り物の打ち綿を全部使って蒲団を七枚仕立て、名を告げずに寺へ置いてくる。櫃は空になり、和泉屋への払いが七百文残った。そこへきぬが女衆七人を連れてきて、箪笥の底の古い綿入れを四十二枚、土間へ広げる。四枚で蒲団が一枚。誰が何匁出して、誰へ何匁回したかは、全部帳面へ書く。十五の千代松が弓を持ち、寝たままの祖母が口だけで撥の落とし方を教える。——晩秋から翌年の夏まで、この打ち場で弓を持つ手が入れ替わるまでの十か月。最後にはるは自分の道具を風呂敷に結び、竿秤へ吊って目盛りに指を当て、読み直さずに離す。時代ライト文芸・全10章完結。

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    8月17日発売予定

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