船を降りて浜に流れ着いた干物屋ですが、戻らない干物を作りつづけたら、浜を束ねる女が来るたび何も訊かずに魚を置いていきます

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六年前の秋、東の磯に流れ着いた男がいた。浜の女たちが三日、湯を沸かして助けたという。当人はその三日を覚えていない。湯の中で誰かが数を数えていた気がする、それだけである。宇之助、四十一。十三から船に乗って二十二年、降りてこの浜で六年になる。干し棚は二枚。一日に開けるのが六十尾で、干すのに二日かかるから、二枚でちょうどよかった。ちょうどよいというのは、腕が一組しかないという意味でもある。五年、その数を一度も増やしていない。その夏、干物が戻りはじめる。二日置いて押すと、六十枚のうち二十二枚に指の跡が残る。塩を三升に増やせば表だけが乾き、三日干せば目方が十一匁まで落ちる。据え付けの塩桶の底板は三箇所抜けていて、買っている荒塩には苦汁が残り、満ち際に汲んだ汐は濁っている。宇之助は原因を一つずつ数えて、一つずつ潰していく。志乃、三十五。磯で二十四年働いた手をしている。返事を待たずに動き、彼の海の話は始まると引き潮まで終わらないと言って途中で切る。その志乃が女衆の獲った魚を置いていくようになり、棚は二枚から三枚に、やがて十四枚になる。一日八百四十枚。干し場に立つ手が十になる。六年前に流れ着いた磯へ、彼は年に何度か行く。懐の木札の焼き印は、上の一画だけを残して潮に舐められて消えている。日にかざしても出てこない。誰もそれを訊かない。この浜は訊かないことになっている。——冬の暮れ、浜の灯が落ちていくのを数える声で閉じる十か月。時代ライト文芸・全10章完結。
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    8月14日発売予定

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