子買い納屋

子買い納屋

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柏木の里の東の外れ、谷口へ上がる道の途中に、間口三間の納屋が一軒ある。ヨネ、二十四。十六の年に母屋が屋根から落ちて、鍋と臼と莚と飯櫃だけを持ってここへ移った。移ったその月に川端の竹藪の下で三つばかりの男の子を拾い、寝床の藁を一人ぶん広げた。広げたら二人になった。二人になったら、三人になるのを止める理屈がどこにも見つからなかった。八月の十六日、彼岸の入りの朝。戸口の敷石に古い莚が二つに折って置いてあり、生まれて十日ばかりの女の子がくるまっていた。これで七人になる。この納屋では拾った所に在った物から名を取る。竹藪の下でタケ、溝の菅でスゲ、梅の木の下でウメ。敷石に夜の雨の筋が残っていたので、八つのスゲが炭でミオと書いた。その日の昼前、隣家のゴサクが垣の外で指を折った。一つ、二つ、三つ。数え終えると、数えた指をそのまま相手に向ける癖のある男である。七つだ、とゴサクが言う。七人だ、とヨネが返す。一つ二つは物の数え方だ。──お前のやってることは、子買いだ。畑道で桶の音がした。秋のあいだに、里の女は納屋の前の分かれ道を右へ折れて遠回りするようになった。稲架は先に埋められ、店の弥助は俵の口を開けたまま麦を売らなくなり、麦を作る家は三軒とも今年は余らないと言う。蓄えは八斗。一日一升四合で五十七日ぶん。冬は十月の末から二月の末まで百二十日ある。足りない六十三日は九斗、麦で買えば二貫八百八十文。手元には三百五十七文しかない。ヨネは楢山の東斜面へ通うことにした。渋くて誰も拾わなくなった橡の実である。拾って、干して、皮を剥いて、晒して、灰汁で煮て、もう一度晒す。食えるようになるまでに十日かかる。初雪までの十四日を、三人で通う。同じ秋、ゴサクは六年前に自分が打った北の壁の板を、牛小屋に要ると言って剥がしていく。その牛小屋は去年直っている。六年前の秋に、なぜこの男が納屋の壁を見に来たのかは、まだ誰も知らない。十一月十七日の夜、二尺五寸の雪が降る。子を物として数えた男が、七つの名を順に呼ぶまでの、ひと秋とひと冬。【子買い納屋 全十巻】一~四巻=里と村と宿場と郡/五~七巻=領と隣領と王都/八~十巻=公儀と国境と、その一語。本巻は第一部の一冊目、シリーズの始まりです。ここから読めます。
一覧
  • 子買い納屋 一の巻 拾った子を七つと数えられた女ですが、初雪まで楢山で橡を拾って灰汁を抜いたら、隣の百姓が来るたびに七人の名を呼んでいきます

    8月13日発売予定

  • 子買い納屋 二の巻 三人を村の外へ出せと申し渡された女ですが、村の粥屋で炊く側に立ちつづけたら、年寄が朝と夕に一度ずつ触れ板を読んでくれます

    8月13日発売予定

  • 子買い納屋 三の巻 人宿の主に同じ商売だと言われた女ですが、裏の小屋の四人の泊まり賃を払ったら、下働きの女が毎晩その日の宿賃を足していきます

    8月14日発売予定

  • 子買い納屋 四の巻 帳外れの子は居ないものと扱えと言われた女ですが、雪の尾根を越えて名を集めたら、郡の下役が毎日、夜の潜り戸を開けてくれます

    8月15日発売予定

  • 子買い納屋 五の巻 救民の粥の列から外された女ですが、納屋の前の竈に二つとも火を入れたら、川下の村の子が毎朝、椀を持って並びに来ます

    8月16日発売予定

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