組合の検査の条は変わらない。一等は貫入なきこと、歪みなきこと、色むらなきこと、口が水平であること。この四つを全部備えたものだけが一等になる。一つ欠ければ二等、二つ以上欠ければ三等、使うに堪えないものは等外。条はそれだけである。柏尾の土は鉄の気が多くて、焼き締まるときの縮み方が釉と合わない。合わないから、冷めていくあいだに釉の面へ細い筋が走る。貫入である。山際邦彦の窯から出るもので、これが出ないものは一つもない。父の代から一つもない。山際邦彦、三十三。十九で父を亡くして一人で窯を継いだ。その年から、山際の器に一等がついたことは一度もない。判を押すのは土岐郁夫、三十七。四つ上である。検査の場では等級と理由だけを言い、私語をしない。返事のかわりに手元の物に触れる。一日に交わす文の数が数えられるほど言葉が少ない人だった。窯を継いだ年、二等の卸値は一つ六十五銭だった。それが十四年かけて五十銭になった。一等は七十銭で、こちらはほとんど動いていない。一等と二等の差は、十四年で五銭から二十銭に開いた。引き出しの奥の証文には三百二十円とある。利は月に一分。期日は十一月の晦日。十四年、晦日の前に番頭が来て、証文の裏へ判を押して、また一年延びる。断られたことはない。断られる日のことを考えたことはあるが、考えても仕方がないので途中でやめるのが常だった。土場の奥の山は三百貫ある。十四年前の秋に、父と二人で沢の奥から採ってきた土だった。父はその冬に倒れて、春に死んだ。使わずにいたのではなく、使う先がなかった。十四年寝かせた土で徳利を挽いても、二の判が押されれば値は五十銭である。同じ五十銭なら、去年の土で足りる。この山の高さを、山際は年に一度だけ確かめる。竹の棒を差して深さを見て、目の高さで見当をつけて、また戸板を被せる。減るはずのないものを毎年測るのは、我ながら間の抜けた仕事だろう。それでも測らない年はなかった。町の大きい問屋が今年で取引を切ると言う。柏尾のものは十四軒から七軒に減らす。一等の出る窯を残す、という話になった。残るのは、旦那、今年も焼いてくださいよ、としか言わない問屋の御木本喜六だけになる。作業場の棚の二段目には、三寸に一寸ほどの焼き物の板が一枚ある。片面にだけ灰色がかった緑の釉が掛かっている。何のためのものなのか、山際は知らない。BL時代小説・全10章完結。
