材木町の置場に桟積みが二十二山。山ごとに木口へ伏せ札が打ってあって、札には伏せた年と月と、伏せた者の印が墨で入る。布施幹はその札を読まない。読まなくても木口を見れば何年寝かせた板か分かるし、分かるようになるまでに十五年かかった。十六の年からこの町の材木方をしていて、いま三十一になる。置場の男たちは布施を名で呼ばない。呼びようがないからである。組合の名簿に載っていない者は帳面の上では居ないことになっていて、その日ごとに使われる手間の者として数だけが入る。八年、そうしている。冬になると手の甲が割れて、割れたところへ木の脂が入って黒くなる。八年前の秋、川向こうの大寺の中の門の建具が納めの日に狂った。組合の裁きの場で、材木方の木口の選り違いである、と申し立てられた。申し立てたのは意匠家の斯波龍平で、布施は会所の板の間に居て、その口が動くのを正面から見ている。名簿から名が消えた。出ていけと言われて出るときに、腰の袋から選り刀が落ちた。落ちたのは分かっていたが、拾わなかった。拾えば拾ったところを誰かが見るし、見た者は憐れむからである。霜月の朝、その斯波が置場の門から入ってくる。大寺の本堂の建具を請けました、と言う。建具は三十六本。框はすべて八年伏せ以上の檜と、寺と組合の両方から言われている。木口を選る者に、布施幹さんを名指しでお願いしたい。布施は断らない。よくはない、ただ木の話と人の話は別だ、と言う。そしてその足で組合へ行き、再審の願を出して、末尾に自分の手で年を書き添える。今年で最後にする。願は受理も却下もされないまま、留め置きの棚に上げられる。八年、毎年三日に紙を書いてきた。書いて上げて、翌年また書いた。書いているあいだは終わっていないと思っていたし、終わっていないというのは、いつか終わる見込みがあるということだと思っていた。木口を見るくらい誰にでもできる、と言う弟子たち。名簿から消えた者を仕事に入れるのは掟に触れるという役員の警告。銘から斯波の名を外すという通告。一度出した申し立ては取り下げられないという掟。そして会所の隅で、いつまでも名を呼べずに、あの、とだけ言って去っていく同じ置場の男。一本に四隅、十一本で四十四か所を、朝と夕に二度触る。毎日同じことをしないなら、選る意味がない。期限を切るのは、組合ではない。BL時代小説・全10章完結。

