借財だけを遺された湯屋の弟ですが、湯銭を一銭のまま番台に座りつづけたら、山の兄が月ごとに湯札を二千枚降ろしてよこします

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柏尾の町の湯屋は、川へ落ちる坂の途中に建っている。町の者は下の湯と呼ぶ。湯は沸かすのではなく、山道を一里半上がったところの湧きから、竹と木を継いだ樋で落ちてくる。継ぎ目は四十いくつある。樋渡望、二十八。父が死んだ夏に残っていたのは三百二十円の借財だけだった。二十歳で番台に座り、八年、湯銭を一銭のまま据え置いて、年に二十五円ずつ返してきた。一度も遅れていない。都合が悪くなるほど声が明るくなり、詰められると値段と天気の話に逸らす。八年、番台に座ってそれだけを覚えた。父が死んだ日、樋渡は釜場へ行って、そこにいた男に言った。お前は出たほうがいい。蓮沼継、当時二十七。十七で内弟子に入り、十年その釜場にいた男である。血は繋がっていない。ただ湯屋の中の呼び名として、樋渡は弟で、蓮沼は兄だった。次の日、蓮沼は父の版木を持って山へ上がり、湯守になった。町から樋の手入れを請け負い、毎年きちんと手間賃を請求し、月に二千枚の湯札を刷って降ろしてくる。隠していることは一つもない。町の全員が知っている。その手間賃が、九度とも十二円のままだったことに、樋渡は九年気づかなかった。冬から八月の終わりまで。BL時代小説・全10章完結。

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    8月18日発売予定

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