職を潰すと言い渡された鐘楼の重り上げ番ですが、今年も錘を上げていたら、大時計の設計者が毎晩百二十七段を上がってきます

職を潰すと言い渡された鐘楼の重り上げ番ですが、今年も錘を上げていたら、大時計の設計者が毎晩百二十七段を上がってきます

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町に時計は四つしかない。役所と、郡長の家と、質屋と、塔。あとの二千いくつの人間は、塔の鐘で起きて、鐘で店を開ける。沼尻千尋、三十四。十五で塔に入って十九年、毎晩ひとりで錘を上げてきた。歩みに三十二、時打ちに四十八、締めて八十。一晩も欠けたことがない。十九年は誰でもやれば十九年だ、と本人は思っている。錘は下がる。下がるから上げる。それだけのことに、名前がつく理由が分からない。その名を、大時計の改修設計を任された二階堂顕が、人前に出るたびに読み上げる。八十人の町衆の前でも、郡の役人の前でもそうする。頼まれたことは一度もない。やがて町の時計師が郡へ申し入れを出す。発条式に造り替えれば八年で百五十六円浮く。つまり、この職はなくなる。「潰します。仕事の話ですから」と、その男は沼尻本人の前で言った。比べの日は初冬の朔日、刻限は昼の九つ。十九年、誰にも何も渡してこなかった男の宿直部屋に、炭の鉢が二つ、黙って増える。初夏から翌年の三月晦日まで、百二十七段の上と下で。BL時代小説・全10章完結。
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    8月16日発売予定

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