舟木詠一、二十四。十八で家の帳場に入り、六年、荷と金の勘定だけを見てきた。去年の暮れに父から条件つきの許しを一枚もらって、鵜ノ首の商船学校の講習科に入る。二十六人のうち、いちばん年上だった。入所実技は十四番。中の下である。それなのに教官の直江惺吾は名簿を開かず、いちばん後ろの列を見て舟木を第一旗手に名指しした。根拠は言わん、とだけ言われる。助教の三隅いわく、この六年で旗手を名指しで決めたのは初めてだという。夏までに帳場へ戻れという家からの期限と、九月に言う、という教官からの期限。二つに挟まれたまま、舟木は毎日旗を振る。三画目で一瞬止まる古い癖は、直すなと言われた。物置には六年前の日付だけが鉛筆で書かれた木箱があって、中には柄の折れた手旗と、火屋の割れた信号灯が入っている。返事が来るかどうかも分からないものを送りつづけること。それだけを教える男の隣で、舟木は初春から初冬までの二百五十九日を数えていく。BL時代小説・全10章完結。

