朝の点呼で人は十九、輓馬は二十六頭。宿の親父と水袋の値をやり合って、銀三匁を一匁半まで押し戻す。堂上響はそうやって六年、瀬名隊商の隊列を並べてきた。堂上響、二十八。十六の秋にこの隊に入って十二年になる。男のオメガが隊列長をやっているというだけで、隊の外の連中はまず腺の具合から先に訊いてくる。隊商の掟では、番を持たない者が隊列長でいられるのは三年までである。前の隊列長は三年で番を持てずに隊を離れ、いまはどこかの町で桶を作っていると聞いた。瀬名遼、三十五。六年前に二十九で隊商を継いだ。アルファの男にしては声を張らない人で、隊の者を怒鳴ったところを堂上は一度も見たことがない。今年は、あなたの口から額を言ってください、と言う。堂上は四十匁と自分で言う。去年は三十六匁だった。六年前の渡し場で川が四尺上がったとき、綱を切ったのは堂上だった。許しも取らずに自分の前の綱を切って、切ってから怖くなって、しばらく声が出なかった。荷主の前で頭を下げたのは瀬名で、堂上は帳場の外の廊下から見ていた。あの位置に、二度と立ちたくない。だからあの晩から、荷は捨てないと決めている。長雨の窪みで十三頭目が傾いたときも、切らないと決めてるんです、と言って肩で二百斤を受ける。半日遅れて、濡れたのは紙二包み、銀八十匁だけ。切っていれば三百二十匁でした、計算が合いません、と隊商主は損を賃銀から引かせない。野営の火のそばで六年前の話が出るたび、古参筆頭が笑って遮る。上がったのは四尺だ、翌朝、杭の跡を見た。人は、本当に面白いときには、あんなに早く笑いません、とこの人は言う。野営の設営には順がある。杭は十八本と予備が四本、幌の向きは風の来る側へ、薪は太さを三種に分けて、水は上流三十歩まで見に行く。火は三つ焚く。堂上は毎晩それをやっていて、六年やってきて、これだけは一日も欠かしていない。桐の端切れを削って荷札を彫るのも、この五年で二百枚を数えた。掟を曲げているのは瀬名で、曲げた責めを自分の側に置いて、それを毎年やり直してきた。持っているものを減らすと、決められることが減ります。初秋から初夏まで、街道と野営の一年。オメガバースBL・全10章完結。
