手術室でいちばん静かな仕事。麻酔科医の汐見奏は、患者を眠らせて、朝、起こす。眠っているあいだのことだから、誰の記憶にも残らない。この七年に、特別な意味なんてないと思っていた。ある日、寡黙な天才外科医・桐岡玲司が、年次を飛び越えて奏を専属麻酔科医に名指しする。便利なだけだと陰口を叩かれても、あの人はほかの誰にも執刀台を譲らない。理由は教えてくれないまま、白衣の胸にはいつも、塗装の剥げた古いペンライト。──六年前のあの夜、崩れかけていたこの人を引き止めたのが、わたしのどの声だったのか。答え合わせは、最後の手術室で。本作は早乙女燐の「わたしを名指しで離さない」シリーズ。一話完結・どこからでも。

