七尾想が嘘をつくとき、右手の中指が机の角をひとつだけ叩く。本人は一生気づかない。気づいているのは、営業二課でおそらく俺ひとりだ——桐生悠成、三十二歳、アルファの課長。無表情で「わかりにくい」と言われるオメガの部下の、たった一本の指の癖を、俺は二年かけて手で覚えた。ある日、会社が適合判定システム「オルフェア」を全社導入する。区分間の“運命の番”の相性を、パーセンテージで管理しはじめるという話だった。運命の番が見つかった相手はみな幸せになる、と言い切る一課のエース・榊。悪意のない、その明るい確信こそが、いちばん厄介だった。判定は、俺と七尾を『非適合』と切り捨てるかもしれない。あるいは勝手に太鼓判を押すかもしれない。どちらでも俺は腹が立つだろう。運命なんかじゃない。二年かけて拾ったこの男の黙り方の種類だけは、システムの数字には、絶対に測れないからだ。本作は白洲かなでの「運命の番と診断されて」シリーズ。一話完結・どこからでも。

