十年、勇者パーティ「暁の楯」の後方で薬を作り続けた薬師ロランに、支払われたのは飯代と宿代だけだった。四本の解毒剤を毎朝欠かさず腰に提げ、氷窟では魔法使いミラの命を一本で拾ったことさえある。だがその手つきに、誰も値段をつけなかった。宮廷の錬金術師を後任に据えると告げられ、「鍋をかき混ぜてただけの奴」と嘲られて、ロランは追放される。持って出たのは、師から継いだ石臼と乳鉢だけだった。流れ着いたのは、薬師が一人もいない辺境の宿場町カルデ。戸口には病人の白い布と死者の黒い布が並び、子どもが薬もなく死んでいく町だった。ロランは閉ざされた薬屋を借りて店を開き、摘む才のある少女リタに手つきを教え、元傭兵の女将バサ、鉱夫あがりのゴウとともに、町ぜんたいが自分の力で薬を回せる仕組みを作っていく。薬の道を握る商会ヴェルグに一度は道を塞がれ、目の前で母親に薬を渡せずに負けもした。それでもロランは、半年をかけて蔵に解毒剤を満たし、井戸に濾し器を据え、崩れない道を敷き、近隣の村に無償で技を配り続けた。やがて北から毒の霧が下りてくる。北の村々が丸ごと沈むなか、備えのあったカルデだけが死者を一人も出さず、四百を超える避難民を屋根の下に抱えて立ち続けた。そして毒に倒れた「暁の楯」の一行が、この町へ助けを乞いに這い着く。「薬を寄こせ、治すのがお前の仕事だ」と命じる勇者ガイに、ロランは静かに首を横に振る。「断る。あんたたちが、王都で俺の薬の値段を勝手に決めたようには、もういかない。この町では、薬の使い道を決めるのは、俺だ」毒が晴れたあと、駆けつけた大公はロランに宮廷薬師の位を差し出す。ロランはそれを断り、代わりに「薬の往来を誰にも禁じさせないこと」と「技を無償で教える自由」を願い出て、辺境の町医者のまま店に残る。追放は罰ではなく、値段のつく場所へ出してもらえた一本の道だった。本作は「追放薬師ロラン」シリーズ第1巻(全8巻・完結)。

