王都の地図座で貴族の土地の境を正しく測ってしまい、「泥塗り」と罵られて追われたスイは、北の街道の宿場町・霧尾に流れ着く。杉板に墨で「地図師 スイ」と看板を掲げ、その夜、上に「泥塗り」と書き足して二行にした。最初の依頼は、宿の女将トヨの「東岸に水が来ない」。水路を上流から測り直すと、分水の枡の板が五分だけ厚くされていた。糸をたぐるうちに行き着いたのは、名主カイエンが十二年前に一人で書き写した土地台帳と、定規で引いたようにまっすぐな崖の裾の朱引き。曲がっているはずの崖の裾をまっすぐ引き直すことで、崖下十二軒の畑の上の段——幅九間の帯が、名主家のものにされていた。だが公開の測り直しの場で分かる。カイエンがそれをしたのは、街道の御役所に「水のよい谷」を召し上げられ、十二軒に畑を捨てさせないため——谷を痩せ地に見せて守るためだった。スイは境の石が捨てられていないことから原本の在りかを言い当て、納屋から出た原本の崖の裾は岩に沿って曲がって「十八間、あります」。台帳は榎の下の、鍵のかからない箱に置かれ、町のものになる。町の者は初めて自分で縄を張り、荷の俵を数えはじめた。荷方に「境荒らしだ」と罵られ、スイは頭を下げて――「よい名を、いただきました」。看板は、三行になった。本作は「地図師スイ」シリーズ第1巻(全7巻・完結)。
