両親の遺した小さな喫茶店「ひだまり」を、天涯孤独で切り盛りする陽。都心の超高層「アルクタワー」の低層に灯る、珈琲の湯気だけが友達みたいな、平凡な毎日。ある土砂降りの夜、閉店間際の扉を、ずぶ濡れで憔悴しきった男が押し開けた。裏切りに遭い、何もかも失いかけた顔。追い出す理由なんて、いくらでもある。でも——「うちの珈琲でよければ、温まってってください」。母から受け継いだ俺の手は、勝手に一杯を淹れていた。男の名は鴻上慎司。タワーの最上階に君臨するITベンチャー「ノクター」の社長で、業界で「硝子の帝王」と恐れられる男だった。翌日から、冷酷なはずのその男は、なぜか俺の店に通い、俺にだけ、不器用なほど甘い。「十年前、お前の一杯が、俺を生かした。今度は、俺がお前を守る番だ」。やがて共同創業者の裏切りが会社を揺らし、機密漏洩の濡れ衣が、部外者の俺にまで着せられる。逃げろと言いながら離してくれないこの男は——十年前から、俺の淹れる珈琲だけを、忘れられずにいたらしい。IT社長×バリスタの企業格差×重執着溺愛、現代格差BL長編。シリーズ・全10章完結。
