京・西陣の裏で母の一膳飯屋「七輪食堂」の味を継いだ遥。母を亡くし店を畳み、腕一本を頼りに、東山の老舗料亭「花霞」へ板前見習いとして住み込んだ。手にした武器は、母仕込みの舌と、仕入れと原価の勘、そして母の形見の献立帳だけ。ある花冷えの夜、閉店後の板場の裏口に、雨に濡れた上等な仕立ての男が崩れ落ちてきた。堅気の常識なら救急車一択だ。でも——母に仕込まれた手が、勝手に動いた。温かい賄いを一膳、椀に盛って差し出す。「うちの椀をくぐった客は、誰だろうと空腹で帰さない」。男の名は華房冴。花霞を束ねる若旦那にして、花霞グループの社長。「笑わぬ若旦那」と恐れられる、俺の雇い主その人だった。冷徹なはずのその男は、俺にだけ、不器用なほど甘い。「十年前、お前は俺を生かした。今度は、俺が守る番だ」。やがて大番頭の背任と偽伝票が、老舗の暖簾ごと料亭を乗っ取ろうと手を伸ばす。身分違いだと言いながら逃がしてくれないこの男は——十年前から、俺だけを見ていたらしい。御曹司×板前の企業格差×重執着溺愛、現代京料理BL長編。全10章完結。

