下町の小さな銭湯「宝湯」を、祖父の代から一人で守る温人。番台と釜の湯気だけが友達みたいな、平凡で堅気な毎日。ある底冷えの冬の夜、閉店間際の暖簾をくぐって、脇腹を刺された血まみれの大男が釜場に倒れ込んできた。堅気の常識なら通報一択だ。でも——祖父に「湯屋の暖簾をくぐった者に、堅気もヤクザもねえ」と仕込まれた俺の手は、勝手に動いていた。熱い湯で体を温め、傷を手当てする。男の名は碇直継。港湾荷役を仕切る「灘神一家」の跡目で、埠頭に「不動」と恐れられる極道だった。回復した男は、なぜか堅気の俺の番台に居着いて離れない。冷徹なはずのその男は、俺にだけ、不器用なほど甘い。「十年前、お前の湯が、俺を生かした。今度は、俺がお前の湯屋を守る番だ」。やがて借金のカタに宝湯を狙う地上げ屋と、一家の裏切りが、下町の俺の湯屋にまで手を伸ばす。堅気に戻れと言いながら番台から離してくれないこの男は——十年前から、俺だけを見ていたらしい。港湾の極道×堅気の銭湯主人の格差×重執着溺愛、現代任侠BL長編。全10章完結。

