刻紋の氏族の彫物師――非力で「役立たず」と己を思う下働きの俺、ネイロは、氏族の定めの宴で、献ぜられる下働きの一人として紋様王に差し出された。孤児上がりの、使い捨ての彫物師。定めなど、俺には荷が重い、そう思っていた。刻紋を統べる氏族を統べる紋様王メルヒオは、肌に浮く生きた刻紋が昂ると荒れ狂い、触れた者の手を灼くと畏れられ、誰も肌に触れられぬ男。その定めの夜、俺は生まれて初めての発情期に襲われる――自分がオメガだと、その日まで知らなかった。群がるアルファの氏人を、荒れ狂う刻紋の灼く気ひとつで退けた紋様王に、誰も近づけない。震える手で、俺はただ、いつもの針を、その荒れる刻紋にそっと添えた。すると、荒れ狂っていたはずのその肌の紋が、俺の針で、鎮まった。「この針だ。俺の刻紋を鎮める彫り手。お前が、俺の運命の対だ」。下働きのはずの俺を、紋様王は番と定め、なぜか、逃してくれない。俺の中に眠る"彫り手の血"だけが、荒ぶ紋様王を鎮められると、やがて知る。番化、隣氏族の企み、灰紋の若長による略奪――刻紋の氏族の宮で、俺は役立たずのはずが、この人にだけは、大切にされていく。BL異世界オメガバース長編・全10章完結。
