断崖を刳り抜いた巨石都市、巌宮――その石切場で下働きをする石彫師の俺、ハクアは、大石を截つ力もない非力な半端者だ。廃れた石切場邑で孤児だった俺を、親方のオトーが拾い育ててくれた。役立たずの俺に、居場所などない。そう思っていた。巌宮を統べる若き巨石王ハルバルトは、その手が触れた石をみな砕き、大切なものほど壊してしまうと畏れられる男。代替わりの定めの儀に石工衆として召し出されたその日、俺は生まれて初めての発情期に襲われる――自分がオメガだと、その日まで知らなかった。群がるアルファたちを、巌の血の気迫が退ける。周りの石柱が砕けていく。誰も近づけない。震える手で、俺はただ、己の彫った石を、王の砕く手へ差し出した。すると、何もかもを砕くはずのその手の中で、俺の石は、砕けなかった。「これだ。俺の手に砕けぬ石を彫る者。お前が、俺の運命の対だ」。下働きのはずの俺を、巨石王は運命の番と定めて囲い、俺はもう、抗えない。俺の中に眠る"石彫の血"だけが、砕く巨石王の手に耐えると、やがて知る。番化、采石領主の企み、隣領の石工頭による略奪――断崖の荘厳な宮で、俺は役立たずのはずが、この人にだけは、運命として選ばれていく。BL異世界オメガバース長編・全10章完結。

