陥落した小邑セドの従軍の太鼓打ち――前線では戦えぬ非力な下働きの俺、トウリは、降伏の宴で、貢の一部として鉄の傭兵王に献上された。使い捨ての献上品。いつ捨てられてもおかしくない、そう思っていた。国を持たぬ最強の傭兵団「鉄鴉」を率いる傭兵王ゲルハルトは、戦場で血が昂ると味方すら近づけぬと畏れられる男。その献上の夜、俺は生まれて初めての発情期に襲われる――自分がオメガだと、その日まで知らなかった。群がるアルファの傭兵たちを、猛りの気迫ひとつで散らした傭兵王に、誰も近づけない。震える手で、俺はただ、いつもの手鼓を打った。すると、猛り狂っていたはずのその男の血が、俺の拍で、凪いだ。「この鼓動だ。俺の血を鎮める打ち手。お前が、俺の運命の対だ」。献上品のはずの俺を、傭兵王は番として囲い、なぜか、逃がしてくれない。俺の中に眠る"戦鼓の血"だけが、猛る傭兵王を鎮められると、やがて知る。番化、雇い主の企み、隣の傭兵団の頭による略奪――流浪の戦野の陣で、俺は捨て駒のはずが、この人にだけは、大切にされていく。BL異世界オメガバース長編・全10章完結。
