滅びたアルガリ氏族の生き残りとして、たった一つの馬乳酒の壺を抱え、天幕から天幕へ渡り歩いてきた流浪の醸し手、俺、ソラン。誰にも望まれない漂流者だと諦めていた二十の春、交易の天幕市で突然、発情期に襲われる――自分がオメガだと、その日まで知らなかった。草いきれに混じって立ちのぼる甘い匂いに、殺気立つ騎馬のアルファたちが群がる。その瞬間、黒鹿毛の駿馬カランを駆り、俺を鞍上へと攫い上げたのは、大草原の諸部族を束ねる若き覇王――風祖テングリルの血を引く「草海の覇者」、非情の可汗アルタイだった。「お前は、俺の番だ」。荒ぶる血と草原の風を、誰にも鎮められなかった男が、十年、草の海を駆けて探し続けた「風祖の対」。攫われた黄金の天幕、逃げ場のない幕営、番を狙う長老の政争、そしてソランの醸す馬乳酒だけが可汗の暴れる血を鎮め、草原じゅうでソランにしか懐かぬ一頭の仔馬――運命と草原の盟約に絡め取られながら、俺はやがて自ら項を差し出し、草の海の覇者たる可汗のただ一人の番として、己を捧げる覚悟を持つ。BL異世界オメガバース×草原冒険長編、シリーズ第1巻・全10章完結。
